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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

シャッター商店街の高齢者を
「弱者」と決めつける世論の歪み

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第23回】 2015年7月14日
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老夫婦が営む店が閉店寸前になっていたのは、法改正のせいではなかった?

 今回は、ある老夫婦を取り上げることで、本当の「弱者」は誰であるのかを考えたい。その夫婦は、神奈川県内のある町で商店を営んでいた。病気などですでに他界しているが、あることがきっかけで、この夫婦はメディアに登場することになった。

 当時、夫婦を取り上げるメディアの目は明らかに歪んだものだった。夫婦はメディアによって「弱者」と目され、「救済されなければいけない対象」とされた。詳しくは後に続くエピソードを読んでほしいが、筆者はこの夫婦を取り巻く当時の状況には、現在の企業の職場にも相通じる課題が横たわっていたように思う。

 企業の職場においても「弱者」と目される人はいるが、そもそも利害関係が複雑な企業において、特定の人を「弱者」と見なし、「救うべき対象」とすることにはあまりにも無理がある。こうした雰囲気が、世の中を息苦しくしている大きな理由の1つであるとさえ、筆者は思っている。

 ところが、その歪んだ論理を押し通そうとする世論や空気がある。それを盛んにリードするメディアや識者もいる。そのいびつな構造の中で、本当の「弱者」が苦しみ、声なき声を発しているのだ。メディアは本来、そうした声こそ拾い上げるべきではないのか。


本当の「弱者」は誰なのか?
老いた女性の死から想起すること

 数年前、1人の女性が亡くなった。70代後半だった。そのことを先日、知った。筆者はその女性と、1998年から2000年までの間に、取材を通じて10回ほど会った。その後も、電話で何度か話し合った。

 1998年当時、彼女は64歳。それより8年前、夫が脳梗塞で倒れた。意識がなく、家の中で寝たきりだった。夫婦は40年以上にわたり、東急東横線の某駅から歩いて15分ほどにある「商店街」で、履物屋を営んでいた。

 98年の時点で、店は閉店寸前だった。店主である夫は店に立つことなど、到底できない。妻であるその女性は、終始介護で夫に付き添った。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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