創続総合研究所

「親の面倒は俺がみる」「兄さんお願いね」が「争続」に変わる時
~トラブルを生みやすい不動産の相続

相続で露わになる、子どもたちの本心

斎藤 実は、話はもうちょっと複雑なんですよ。「自宅を受け継ぐのは当然」と考えていた長男は、そのうえに「少しでいいから、現金ももらいたい」という意向を持っていました。相続税の支払いもあるし、子どもにお金もかかるし。
 一方の長女、次男の側は、長男に対するちょっとした不信感も抱いていました。

八木 両親との同居を喜んでいたのに、ですか?

斎藤 さきほど言いましたように、自宅は親とご長男の共有でした。登記上の長男の持分は、25%ほどになります。でも、「家を建てる時、そんなに“出資”はしていないはずだ」という話が出てきた。お二人は、「同居した時点で、実質的に親の資産の一部を譲り受けているではないか」とおっしゃるわけですよ。お兄さんのほうは「いや、そんなことはない」と、これは水掛け論。
さらに、ご長男の「親の面倒をみた」という言い分にも、二人には異論がありました。お父さんもお母さんも、特に介護を必要とするような状況ではなかったんですね。「むしろ、自分の子どもの世話をしてもらってたんじゃないか」と。

八木 それが相続の怖いところですね。仲のよさそうにみえた兄弟が、相続になったとたんに、それぞれに主張を始めて、いがみ合ってしまう。結局、どうなったのでしょう?

斎藤 直接依頼を受けたのは長男の方でしたが、「さすがに、現金ももらいたいというのでは、妹さんたちも納得しないでしょう」と説得しました。他方残りのお二人には、現実問題として相続できる資産が他にないことを説明して、現金を分けることで矛を収めていただいたのです。
 長女と次男の大幅な譲歩で、本格的な「争続」にはなりませんでしたけど、やり取りを聞いていると、もうこの兄弟関係は、昔には戻らないな、という感じがしました。

八木 お金は何とかなっても、感情は修復できないんですね。

斎藤 やはり、親御さんが、子どもたちの前で、遺産をどう分けるのかをきちんと話しておく必要がありました。あえて言うと、一次相続も、少しでも長女と次男に現金を相続させておくとか、工夫のしようはあったように感じますね。そこで二人が「親の誠意」を感じ取っていたら、多少なりとも、状況は変わったものになっていたかもしれません。おっしゃるように、「相続は感情」なんですよ。

生命保険で相続の「原資」をつくる

八木 この場合、相続額の差を埋める抜本的な対策はありませんか?

斎藤 唯一考えられるのが、生命保険を使った「代償分割」というやり方です。親が契約者(保険料負担者)となり、親を被保険者(保険の対象者)、長男を受取人とする生命保険に加入しておくのです。そうすれば、親が亡くなって支払われた保険金を、妹と弟に渡すことができます。
 このように、特定の相続人が遺産を相続した場合に、その人が自分の固有の財産――この場合は、受け取った保険金ですね――を他の相続人に渡して遺産分割のバランスを取ることを、「代償分割」と呼ぶんですよ。

八木 生命保険には、そんな活用の仕方もあるんですね。

斎藤 ただし、さきほどのケースに当てはめると、長女と次男を保険金の受取人にしておけばいいように感じますけど、それはNG。保険金は、民法上、あくまでも「受け取った人の財産」で、相続財産には含まれません。二人は、理論上、保険金を受け取ったうえで、さらに相続の権利を主張することができることになってしまうんですね。そこは注意しましょう。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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