AI活用で期待通りの効果を実感していない日本企業

――まずはAI技術の進み具合や、日本企業におけるAI活用の現状について聞かせてください。2年ほど前に対話型の生成AIが注目されて以来、AI技術はすさまじいスピードで進化を遂げています。現在、技術はどこまで進んでいるのでしょうか。

望月 ビジネスにおける生成AIの活用はすでに当たり前となり、現在は人間の代わりに複雑な問題を自律的に解決してくれる「AIエージェント」の活用が広がっています。今後は、人間と同等以上の知能や能力を持つ「AGI(Artificial General Intelligence:汎用型AI)」や、AIとロボットを融合させ、物理的な環境で自律的に判断・行動する「フィジカルAI」が、人間の仕事の一部を代替するようになるでしょう。

AGIやフィジカルAIの活用が本格化するのはいつ頃になるか分かりませんが、その時期は予想以上に早くやって来るかもしれません。

荒井 日本企業による生成AIの導入自体はかなり進んでおり、今や導入していない企業はないと言っても過言ではありません。ただし、欧米など海外の企業と比べると、日本企業は生成AIを十分に活用し切れていないのではないかと思います。

日本企業が「AIトランスフォーメーション」を実現するには荒井慎吾
PwCコンサルティング
テクノロジー&デジタルコンサルティング事業部
上席執行役員 パートナー

PwCコンサルティングが毎年グローバルで行っている「生成AIに関する実態調査」によると、生成AI活用の効果について、米国では回答企業の33%が「期待を大きく上回っている」と答えたのに対し、日本で同じ回答をした企業はわずか9%にとどまっています。反対に、「やや期待を下回る」と答えた日本企業は17%に上り、米国企業の9%を大きく上回りました。

――日本企業が、期待通りの成果が得られていないと感じているのはなぜでしょうか。

荒井 調査結果をより詳しく分析する必要がありますが、明確なユースケースがなかなかつくれないことや、生成AIの活用に対するトップマネジメントのイニシアチブが弱いことが、日米の違いにつながっているのではないかとみています。

望月 日本の中でも、AIの活用が進んでいる企業と、そうでない企業があります。後者の場合、技術の進歩があまりにも速過ぎて導入のタイミングを逸してしまっているケースや、効果は期待できるもののコストがかかるので導入をためらっているケースが見受けられます。一方で、活用に積極的な企業の中には、先んじてAIを活用し、時代の最先端を走ろうという野心を持った企業もあります。

日本企業が「AIトランスフォーメーション」を実現するには望月良太
PwCコンサルティング
ストラテジーコンサルティング事業部
執行役員 パートナー

ボトムアップの取り組みは盛んだが、トップのイニシアチブが弱い

――日本企業がAIを活用し切れていない原因について、もう少し掘り下げて聞かせてください。

荒井 日本企業の場合、個別の部署や社員が、AIを使って自分たちの仕事を効率化しようとするボトムアップの取り組みは盛んですが、「会社として何をするべきか」というビジョンを持って取り組んでいる企業は少ないようです。企業全体でAIを活用していくためには使いこなせる人材の育成も大事ですが、そこまで踏み込めている企業はあまり多くありません。

――使いこなせる人材が少なく、ケイパビリティが足りていないことが、日本企業のAI活用を足踏みさせているわけですね。

荒井 ケイパビリティとともに不足しているのが、AIを活用するためのアセットです。アセットは、直訳すると資産ですが、「社内に蓄積されているデータ」と言い換えれば分かりやすいでしょうか。AIをどれだけ業務で活用できるかは、解析・判断の材料となる社内データが、いかに整理された状態で豊富に用意されているかに懸かっています。

そうした環境を整え、AI-Readyの状態を築き上げることが、これからやって来るAGI、フィジカルAIの時代も視野に入れた「AIトランスフォーメーション」への第一歩といえるでしょう(図)。

日本企業が「AIトランスフォーメーション」を実現するには図 AIトランスフォーメーション実現に向けた道筋
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――望月さんは、日本企業がAIを活用し切れていない原因について、どう見ていますか。

望月 荒井が指摘したように、日本企業によるAI活用の事例はボトムアップによる取り組みが中心です。日本は現場が強い企業が多いので、そうならざるを得ない側面もあるのかもしれません。ボトムアップによる取り組みを否定するつもりはまったくありませんが、「何のために活用するのか」「いかにしてその環境を整えていくのか」というトップによるイニシアチブが発揮されないと、全社として一貫した取り組みには広がっていきません。

トップのイニシアチブに沿って、各部署や個人がAIを活用する「トップダウンによるボトムアップ」の関係性を築き上げることが重要だと思います。

――AIの活用が進んでいない企業からは、「そもそも何から手を付けたらいいのか分からない」という声もあるようです。

望月 当社にご相談を頂く企業からも、同じような悩みを伺います。仮に「何から手を付けたらいいのか分からない」理由が、活用を現場任せにしているからだとすれば、まずは会社としてのAI活用戦略を描き、それを全社で推進させるための組織をつくるのが望ましい手順です。

AIの活用は、それ自体が目的ではなく、あくまで企業が抱えている課題を解決するための手段にすぎません。業務やビジネスそのものを変革したいと考えるのなら、まずは自社が抱えている重要な課題を挙げ、「AIを活用してそれらをどう解決するか」ということを考えて、全社的な活用の戦略とロードマップを描いていくのです。

それに合わせて、「AI推進室」などの推進部門が、各部署や社員による活用の取り組みを全社戦略やロードマップとオーケストレーションしていくのが、AIトランスフォーメーションへの早道だと思います。

「組織横断型イニシアチブ」でAI活用をトータルに支援

――PwCコンサルティングは、数多くの日本企業のAI活用を支援しているそうですが、具体的な支援事例を教えてください。

荒井 あるBtoCの企業は、エンドユーザーからのサービスの申し込みに対して、受付から審査に至る一連の流れをAIによって効率化したいと考えていました。その要望を受け、仕組みづくりのご提案から、業務プロセス全体の再構築までをご支援しました。部門の力が強い企業の場合、業務効率化のためのAI活用は、部門ごと、業務ごとに閉じてしまいがちですが、この企業は、先ほど望月が説明したような「AI推進室」を設け、その働き掛けの下で、受付から審査に至る業務プロセス全体の効率化を実現したのです。

望月 一つの業務だけをAIで効率化しても、それによって削減される時間やコストは限られます。業務プロセス全体を効率化すれば、相対的に大きな効果が得られるのです。

業務効率化はあくまでも活用の一例にすぎず、AIをうまく活用すれば、トップラインの向上や新しいビジネスモデルの創出など、あらゆる課題が解決可能です。企業ごとの課題に応じて、「AIを使って、自分たちの課題をどう解決するか」を考え、実行に移していただきたいですね。

――御社は、どのような体制で企業のAI活用を支援しているのでしょうか。

望月 当社には、産業別、サービス別に数多くチームがあり、それぞれにAIに造詣の深いコンサルタントがそろっています。その専門家たちがチームの垣根を越えて集い、「組織横断型イニシアチブ」というバーチャル組織を編成して、顧客企業の全社的なAIトランスフォーメーションを支援しています。

荒井 顧客企業との窓口となるコンサルタントは1人、または1チームですが、その背後には組織横断型イニシアチブがいて、総合的な視点からAI活用をご支援する体制が整っているのです。まさに PwCコンサルティングがワンチームとなって変革をお手伝いしていると言っても過言ではありません。

――最後に、AIトランスフォーメーションを目指している企業にメッセージをお願いします。

望月 AIトランスフォーメーションのために必要な支援をトータルに提供できるだけでなく、顧客企業に寄り添って丁寧に対応できるのが、PwCコンサルティングの強みです。ぜひ安心してお任せください。

荒井 顧客企業と伴走しながら、課題解決やビジネスの成長に貢献していきます。組織横断型イニシアチブの強みを発揮し、全力で変革をご支援しますので、お気軽にご相談ください。

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