米国がゼロ金利政策に終止符を打ち、金利を引き上げる時期が迫ったというだけで、中国を始めとする新興国から、資金が米国に還流し、世界中で株価が暴落、新興国の通貨が大きく下落しました。1997年のアジア通貨危機が再来するのではないかと、世界はひやひやしながら、成り行きを見守っています。今回ご紹介する『つながりすぎた世界』は、インターネットの普及などによる「過剰結合」が、金融危機を引き起こす遠因になっていると指摘します。その内容を少しご紹介しましょう。
なぜかくも世界の金融市場は
同時に大きく動揺するのか
米国の通貨ドルは「世界通貨」だけに、もともと米国の金融政策に世界は振り回されてきました。今回もリーマンショック後の景気回復・デフレ阻止を狙って、米国が3次にわたってQE(量的金融緩和政策)を採用してドルを大量に供給したため、より有利な投資先を求めてドルが新興国に溢れだし、それが逆流しているのです。ですが、どうして、こんなにも市場が大きく変動にするようになったのでしょうか。それも世界同時に。
一つには、規制緩和の波が世界を覆い、世界各国が資本の自由化、要はマネーの出入りを自由にする政策を進めてきたためです。そして、価格の振幅を大きくしているのが、インターネットの世界的な普及です。インターネットの活用によって、投資であれ投機であれ、取引は秒単位以下で行えるようになりました。身近なところで考えてみるといいでしょう。株式売買は、今やインターネット取引が主流です。一昔前の電話による注文に比べれば、売買にかかる手数料は安く、売買成立までの時間は短い。インターネットがなければ、デイトレーダーなんて人種は出現しなかったはずです。
本書は技術革新によって、つながりすぎた世界がいかに脆弱であり、世界に破滅的な被害をもたらすかを検証したうえで、それを防ぐ処方箋を描こうとする意欲作です。筆者は結合の度合いを(1)過少結合状態、(2)結合状態、(3)高度結合状態、(4)過剰結合状態の4段階に分けます。過剰結合状態とは「社会制度が急激に変わりすぎて環境が変化についていけない状態。あるいは逆に、環境の急変によって発生した文化的遅滞を社会がコントロールできない状態」(29ページ)であり、リーマンショックを引き起こした金融バブルがその典型です。
筆者は大学で電気工学を専攻してインテルに入社し、エンジニアとして過ごした後、ベンチャーキャピタリストに転じたというキャリアの持ち主。筆者は過剰結合を引き起こす最も重要な要素が「正のフィードバック」であるといいます。正と言うと何か好ましいことのように聞こえるが、ここでは「ある変化がさらなる変化を促す」という工学的な意味で使用されています。反対に「負のフィードバック」にもマイナスの意味はなく、ある変化が中和され、環境のバランスを保つことを意味します。