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欧州難民危機は対岸の火事か
思考停止状態に陥る日本の難民政策

ジャーナリスト・嶋矢志郎

嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
2015年10月13日
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欧州難民危機を尻目に、日本はいまだ「難民鎖国」の状態だ。安倍首相の「積極的平和主義」は看板倒れではないか(写真:首相官邸HPより)

 欧州が、戦後最大の難民危機に襲われている。とりわけ、EUがユーロ危機にも匹敵する深刻な脅威に晒されており、混乱を極めている。事態の対応にはもはや短期的にも、中長期的にもEU任せでは収拾がつかず、不可能に近い。

 難民問題は国際社会を挙げて取り組むべき地球的問題群(Global Issues)の典型例であり、その課題解決には「人間の安全保障」という視点と問題意識からのアプローチが必要不可欠である。その鍵は、国際社会が本来、国際協調主義の下で担うべき「保護する責任」を果たすことにあり、いわば人道上の責務である。

 日本の難民政策は、難民に対し「不寛容で、冷淡な狭き門」(緒方貞子・元国連難民高等弁務官の談話から)であるため、国際社会からは「難民鎖国」と揶揄され、不評を買っている。しかし、「国際協調主義による積極的平和主義」(安倍首相の国連演説から)を標榜し、強調する以上、これを機にその汚名を返上してはいかがか。多少のリスクを覚悟してでも、積極的平和主義の看板に恥じないだけの、人道的で「保護する責任」も果たし得る、柔軟で多彩な難民対応へ政策転換を図り、国際社会の流れに乗り遅れず、溶け込んでいくための政治決断が求められている。

戦後最大の危機に揺れる欧州
難民保護は人道上の責務

 中東やアフリカなどから内戦の戦渦を逃れて、欧州を目指す難民の波は後を絶たず、怒涛の勢いを増している。想像を絶する難民の長蛇の列が陸海を問わず、生死を賭けての可能な限りのルートを求めて、命からがら安住の地を目指し、彷徨を続けている。難民の移送をめぐる不慮の悲報も相次いでいる。

 8月末には、ハンガリーの国境付近で走行中の保冷車からシリア難民とみられる71人の遺体が発見された。9月には、シリア難民をトルコからギリシャへ移送中の小船が高波を受けて転覆。トルコの海岸に漂着した3歳の男の子・アイラン君の痛々しい遺体写真が瞬く間に世界中を駆け巡り、衝撃を走らせて、大きな反響を呼んだことは記憶に新しい。

 アイラン君のクルド系一家4人は、テロ組織ISIS(自称イスラム国)とクルド人の武装組織が昨年、攻防戦を繰り広げたシリアとトルコの国境の町・コバニから内戦の戦渦を逃れてトルコへ入国。カナダへの亡命を申請したが、拒否された。一家4人は他の難民とともに、全長4.5mの小船に乗せられギリシャへ向かったが、遭難。父親はアイラン君と5歳の兄、妻の家族3人を高波にさらわれ、見失った。彼らも長引くシリア内戦の犠牲者となったのである。

 中東やアフリカ地域から欧州を目指す難民の海上ルートは、地中海である。国際移住機関によると、地中海は昔からの海難スポットで、難民を乗せた船の事故も急増している。2015年に限っても、すでに犠牲者は2000人を上回っている。命がけの逃避行と知りながら、それでもその選択肢を選ばざるを得ない、切羽詰まっている窮状の証左である。

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嶋矢志郎 [ジャーナリスト]

ジャーナリスト/学者/著述業。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社(記者職)入社。論説委員兼論説副主幹を最後に、1994(平成6)年から大学教授に転じ、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授などを歴任。この間に、学校法人桐朋学園理事兼評議員をはじめ、テレビのニュースキャスターやラジオのパーソナリティなどでも活躍。専門は、地球社会論、現代文明論、環境共生論、経営戦略論など。著書・論文多数。


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