週刊ダイヤモンド 事実は小説より奇なり――。

 日本の新興市場の現状を取材していくと、「作り話」よりも奇妙で、「ほんとかよ!?」と耳を疑うような話が尽きません。

 たとえば、「時価総額」が奇しくも「保有する現預金」と同じ7300万円(!)というオックスホールディングス(大証ヘラクレス)。同社の役員報酬も6400万円とほぼ同額(!!)。

 3年前から株価が99.9%も下落したモック(東証マザーズ)の株価に至っては、ざっと200万円が2000円(!)になった計算です。

 いったいなぜ、こんなことになったのでしょうか。

 週刊ダイヤモンドが以前掲載した同様の特集「新興市場に気をつけろ!」(2007年4月28日・5月5日合併号)では、新興市場の「無法地帯」っぷりをお伝えしました。それに対して、今回の特集のキーワードはズバリ「断末魔」。

 今や、上場廃止基準である5億円をクリアするために5億株以上の株式を発行したり、株価2円以上をクリアするために株式統合したりといった奇策を弄する関係者が急増しており、前回より激しく、もう「何でもアリ」の状態になっているからです。そして市場には、そんなゾンビのように生き永らえてきた企業たちが跳梁跋扈しています。

 その内情をレポートすると共に、それらの問題企業を粗製乱造してきた監査法人や証券会社にも焦点を当てました。

 特に今回は、普段あまり読者がなじみのない「監査法人」の世界も徹底取材し、「会計士の顔が見える」中身となっています。上場企業が監査法人に対して支払う「監査報酬」の実態も徹底調査し、数字で浮き彫りにしてみました。

 さらに、新興市場を食い物にする「仕手筋の手口」、公認会計士・細野祐二氏による「新興市場型粉飾決算」に関する緊急寄稿も必見です。

 そして最後に、新興市場そのものの「制度的欠陥」を比較調査しました。現在の新興市場は、人体になぞらえれば、悪い血が外に出て行かないうえに、新しい血も入ってこない」状態。体内の血液はますます腐り、病状を重くしています。

 悪い血は外に出し、新しい血をどんどん入れるべきです。であれば、たとえば「市場退出ルールは強化すべき」でしょう。

 たとえば先述の通り、東証マザーズの上場廃止基準は5億円未満ですが、米ナスダックのそれは30億円強。ただでさえ甘いルールにもかかわらず、マザーズを含め各取引所はここに来て、一時的に時価総額基準を緩和しました。果たしてそれでいいのでしょうか。新興市場が本来の存在意義を取り戻すために何が必要か、「5つの提言」を示します。

 それにしても、「新興市場」を定義するのは難しいもの。大阪証券取引所の米田道生社長は、「新しいビジネスを始める企業に、資金調達の場を提供する市場」と定義します。

 では、「新しい」ビジネスとは何なのか。目新しい商品、今までにないビジネスモデル、あるいは単に「新しく」創業された企業のことなのでしょうか。

 東証マザーズ第1号銘柄として上場したニューディール(当時はリキッドオーディオ・ジャパン)を例に取れば、同社の事業は、当初のインターネットを使った音楽配信システムの販売から、ホットヨガ、ジーンズ販売、「水素水」の製造販売、風力発電、パチンコ・パチスロ関連事業まで、目まぐるしく変わり続け、現在では「上場廃止の猶予期間入り」となっています。

 取引所は一体、将来性ある「新しいビジネス」を、どこで見極めているのでしょう。特集をそんなことを考えさせられてしまいました。。なお、この「ニューディールの軌跡」の詳細については、特集巻頭ページをご覧ください。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 池田光史)