トヨタの現役幹部による最新刊『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結』から、読みどころを抜粋してお届けしています。今回は、何がオフィスの生産性向上を阻んでいるのか、仕事のムダはなぜなくならないのか、その構造について説明します。

ホワイトカラーは生産性向上の意識が低い

 仕事をしている人は誰しも、間違ったことをして叱られたり、ミスを出したり、やり直しをしたりは、したくないと思います。だから、そういうことはしないぞ、と自分に言い聞かせて、仕事に取り組んでいます。

 また会社や上司も、そういうことはしないように、部下に伝えますし、会社としても、上司としても努力する。ところが、どうしても起きてしまう現実があります。

 要するに私は、こういうことだと思うのです。やってはいけない、起こしてはいけない、といった単なる「心がけ」ではうまくいかないということです。思っているだけでは、結果に結びついていかない。「心がけ」だけではダメなのです。そもそも仕事の進め方に問題がある、ということなのです。

誰でも決断できるほどの資料があるなら、<br />本来、上司は必要ない

 そこで私が考えたのが、「心がけ」ではなく、もっと科学的に仕事の進め方を捉えることでした。ミスをなくしたり、やり直しをしなくても済むアプローチをするということです。それが、「自工程完結」です。

 工場からスタートし、現場や技術者の間で広まって、この取り組みは大きな成果を生み出しました。品質管理の検査で、どうしても出てきてしまう不具合が、この取り組みで一気になくなった事例もあります。

 そして、生産現場での成果をスタッフ部門にも広められないか、ということで、二〇〇七年一月から、「自工程完結」はトヨタの会社方針となりました。

 あまり知られていないことかもしれませんが、トヨタの工場をはじめとした生産現場では毎年、生産性を向上させる具体的な目標を持っています。

 自動車産業の競争は熾烈です。日本の現場は労務費が世界に比べて高いという現実があります。エネルギーコストも安くない。そんな中で、どうやって生産性を上げていくか。

 トヨタは、現場で「カイゼン」を徹底的に推し進め、省人化や省エネ技術の開発に必死で取り組むなど、生産性向上に挑んできました。

 実は「自工程完結」も、そうした生産性向上の努力の中で生まれてきたものでした。そして、生産性向上目標に、かなり寄与することができたと思っています。

 一方、スタッフ部門、いわゆるホワイトカラーの部門には、生産性向上目標はありません。だからでしょうか、生産性に対する意識がきわめて低いのです。

 何かを決めるにしても、むしろ時間をかけたほうが正しい結論が出るのではないか、といった空気があるのではないか。私はそんな印象すら持ちました。

 上司も、時間をかけて考えたり、仕事をしたほうが、部下を評価することがある。勤務時間中の早い時間に「これはどうでしょうか」と持っていくと、「やり直せ」と言われるのに、残業になって夜に持っていくと、「よく頑張ったな」となったりする。

 それなりにできていても、一回目の提出は絶対にOKしない、という上司もいます。もう一回、やり直し、と突き返す。それが上司の仕事だと思っている人がいる。しかも、どこが悪いのか、も言わないのです。

 要するに、ただ単にもっと頑張らせるため。とにかく三回持ってこないと通させない。ところが、三回目だといい加減でも通してしまったりする。そんな仕事が繰り広げられている印象があったのです。