次代を担うチェンジメーカーを育成する日本初の全寮制インターナショナル高校、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)が開校して、1年8ヶ月が経過しました。ISAKの生みの親であり代表理事を務める小林りんさんと、その半生と学校の開校までをノンフィクションで綴った『茶色のシマウマ、世界を変える』の著者石川拓治さんが、「ISAK開校後、今、何が起こっているのか」をテーマに語り合います。後半は、ISAKの教育方針について迫ります。(構成/両角晴香 撮影/宇佐見利明)

ディスカッション中心の授業で
日本の大学入試は大丈夫なのか?

石川 授業やカリキュラムに関してはどうでしょうか。学校をスタートする前に想定した通りスムーズに進んでいますか?

開校2年足らずのISAKが内外の有名大学から<br />注目される理由石川拓治(いしかわ・たくじ)早稲田大学法学部卒業。ノンフィクションライター。1988年からフリー。1961年茨城県水戸市生まれ。著書に『奇跡のリンゴ』『37日間漂流船長』『土の学校』(幻冬舎文庫)、『三つ星レストランの作り方』『国会議員村長』『新宿ベル・エポック』(小学館)、『ぼくたちはどこから来たの?』(マガジンハウス)、『HYの宝物』(朝日新聞出版社)などがある。近著は『茶色のシマウマ、世界を変える』(ダイヤモンド社)。

小林 はい、順調です。

石川 それはよかった。以前、僕もサマースクールを取材させてもらいましたが、大変ユニークで楽しい授業である印象を持ちました。

小林 ISAKは一般の高校とは教え方が異なります。そのため先生方の力量がかなり問われるんですよ。例えば社会科でいうと、一般の高校が「明治○年に岩倉使節団が欧米に派遣されました」という出来事を暗記させるのに対し、ISAKではいくつかのグループに分かれてディスカッションします。岩倉使節団が派遣された意味を考え、目的が達成されたかを考察し、それによって日本にどんな影響を与え、その時代に韓国では何が起こっていたのかなど、多角的に学んでいきます。生徒も事前にたくさんリサーチして授業に臨むんですよ。

石川 僕も学生時代にこういう勉強法で学びたかったと思ったくらい素晴らしい内容でした。それを踏まえた上であえて聞いてみるのだけど、それらの勉強は日本の大学受験対策になるのかな?

小林 センター試験対策にはならないと思います。

石川 ふむ。そもそもセンター試験を受けたい子はISAKを選ばないかもしれないけれど、仮に希望者が出たらどう対応する?

小林 「カレッジカウンセラー」という進路カウンセラーが2人専属でいるので、彼らに相談していただくことはできます。ただ、「センター試験を受けたければ、自分で対策を練ろうね」というのが本音です。昨今「国際バカロレア」の点数を審査する大学が非常に増えてきていますし、逆説的に言うと、センター試験さえクリアすれば、その後の二次試験は、ISAKの生徒はかえって得意だと思うんですよ。

英語の長文読解はお手のものですし、自分で考える力がついているので、国立大の二次試験に出てくるような小論文や数学については相当鍛えられているはずです。

石川 なるほど。

小林 さきほどの話から紐づけると、「何年に岩倉使節団が欧米に派遣されましたか」なんて問題は、ISAKの生徒は得意ではない。だって、「何年」に起こったかは、インターネットで調べればすぐにわかることですから。大切なのはそこではないんですよ。大まかな時代の流れを把握している必要はあっても。

石川 ISAKは、人間を育てる教育としては申し分ないんだろうけど、でもね、ISAKも日本の高校であることには変わりないですよね。
今までの日本の教育方針で、体系的に子どもたちの頭の中に入れてきた膨大な情報を、ISAKの方法でインプットできるのか、というのがちょっと心配かな。

小林 知識をインプットしよう、というのが目的にはなっていないかもしれません。もちろん理系だったら、絶対に必要な基礎知識はありますので、それは知った上で様々な応用方法や実社会とのつながりを学びます。歴史も、「何年に○○がありました」という知識も大切ですが、それよりも、世界全体の歴史の流れが大切だと思うんです。日本史だけを切り取って、年表をばーっと並べるだけでは、その間に世界で何が起こったのか全然わかんない。果たしてそれでいいのかなと思います。

石川 それは、本当にそうですね。

小林 歴史は、世界と日本との関係性の中で教えるべきだと、私は思います。