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JAPANなニュース 英語メディアが伝える日本

今年も飛び交う「日本みたいになるぞ」報道

加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]
【第8回】 2010年7月28日
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英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は「日本みたいに」という報道についてです。米欧の経済専門家たちがこぞって、「緊縮か景気刺激か」を議論しあう中で、「日本みたいに」というのがひとつの指標として取りざたされています。それは残念ながら「日本みたいになりたい」ではなく、「日本みたいになってしまうぞ」という反面教師としてなのですが。(gooニュース 加藤祐子)

マイクみたいにはなれないが

 かつて1990年代のアメリカには、「Be like Mike」(マイクみたいに)という人気フレーズがありました。アメリカの少年たちの憧れがギュッとつまった言葉でした。というのもこの場合の「マイク」はNBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンだったからです。マイケル・ジョーダンが出演するスポーツ飲料CMのキャッチコピーで、つまりマイクみたいにこれを飲めば、マイクみたいになれるよ……という幻想を植え付けるためのものでした。もちろんそれは幻想で、ジョーダンと同じものを飲んでもジョーダ ンになれるわけはないのですが、それを言ってしまってはテレビCMというものがそもそも成り立たない。いずれにしてもこの「Be like Mike」という言葉には、バスケ少年たちの切なくもキラキラした憧憬が詰め込まれています。

 その真逆の意味でここ数年よく使われているのが「日本みたいに(like Japan)」という警告です。「like Mike」のように韻を踏んでいないからイケテないだけでなく、その意味するところも、いやはや……。7月26日付の米『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙米『ロサンゼルス・タイムズ』紙が同じ日に、「日本のようなデフレ状態にアメリカも直面するかもしれない」という内容の記事を載せました。それを読んで私は、何とも言えないデジャヴュ感を覚えました。というのもよく似た論調のコラムを、去年の秋に書いた覚えがあったからです。

 「日本みたいになってしまうぞと英米の経済紙が警告」と去年の10月末に書いたとき、英『フィナンシャル・タイムズ (FT)』紙とWSJは、金融危機以降の各国中央銀行は資金の大量投入で景気刺激をねらったものの、それが実体経済の成長につながっていない懸念がある。それはまさにバブル崩壊後の日本の失われた10年に似てはいないか。とても心配だ――という論調で書いていました。

 それから約9カ月。金融システムの破綻は救われたものの、実体経済は成長しない、いよいよデフレの危険が迫ってきたのではないか。しかも日本の二の舞のような、ずるずると10年間も続いて対策の見あたらないデフレが……というそんな危機感が両紙の記事からうかがえます。

 WSJのジョン・ヒルセンラス記者はこう書きます。「デフレというおなじみのお化けがアメリカ経済の懸念材料として再登場している。(中略)日本のデフレを10年以上も研究した結果、エコノミストたちは次第に、自分たちはデフレの仕組みを何も分かっていないと気づき始めている」。

 いわく、デフレとは大恐慌的な極端な需要と物価の大幅下落のことだと思われていたのだが(1929-1933年にかけて米消費者物価は27%下落)、「日本の経験はそれとは全く違う。ひどく破壊的で数年間に集中するものというよりは、(日本のデフレは)驚くほど緩やかで長期にわたる。日本の消費者物価は15年間も下がり続けているが、単年の下がり幅は2%を超えたことがない。日本のデフレは泥沼ではあるが、多くのエコノミストが予測したような破壊的な下方スパイラルにはなっていない」のだと。そして経済の専門家たちはこの理由が解明できていないのだと。

 日本式の長い景気停滞がアメリカでも発生するならば、それは「大恐慌式のデフレスパイラル」ほどひどいことにはならないかもしれない。それは良いことだ。しかし日本式の景気停滞ならば、だらだらと何年も長引くかもしれない。それはよろしくない。いずれにしても、デフレの仕組みがまともに理解されていないので、良い解決法も見つからないという事態になりかねない――というのです。

 記事は、日本の長期的デフレの展開が経済学者の予想を裏切ってきた理由として考えられるものを色々あげていますが、中でも興味味深いのは、消費者心理が経済環境に与える影響です。消費者が「インフレがひどくなると信じれば、賃上げを要求し、価格上昇を引き起こす。人々が、物価は変わらないか下がると思うなら、それに応じて行動し、自分たちが期待する環境を作り出す。日本がゆるやかなデフレ状態にはまりこんでいるのは、そういう状態に日本の家庭や企業が時間を掛けて慣れきってしまったからかもしれない。2002年から2007年にかけて景気が回復した時も、物価は下がり続けた」と。

 つまり消費者心理が冷えきってしまって回復しないということかと思います。加えて、よく言われる、回復の実感なき景気拡大の問題と、内部留保の問題 と。もっとお金を使いましょう、でないと経済が回らないといくら言われても日本人が使わないのは、それは所得が増えた実感がないから。そして、社会保障のセーフティネットが信じられないから。だとすると、そこから先はエコノミストではなく政治家の仕事のように思うのですが。余談として。

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加藤祐子 [gooニュース編集者、コラムニスト・翻訳家]

1965年東京生まれ。小学校時代を米ニューヨークで過ごす。英オックスフォード大学修士号取得(国際関係論)。全国紙社会部と経済部、国際機関本部、CNN日本語版サイト編集者(米大統領選担当)を経て、現職。2008年米大統領選をウオッチするコラム執筆。09年4月に「ニュースな英語」コラム開始。訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」。

 


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