民主党が参議院選挙で惨敗した。菅直人首相が消費増税を宣言したことが主因だという。だが、少子高齢化も国の多大な債務も、これ以上の財政再建の先送りを許しはしない。そのとき、いかなる経済政策が最も有効なのか。菅政権の看板は、「第3の道」──増税による経済成長である。公共事業による「第1の道」、小泉構造改革の「第2の道」とは何が違うか。政府主導の「新成長戦略」は時代錯誤か。最先端を行く経済学者たちが、“カンノミクス”を斬る。(「週刊ダイヤモンド」副編集長 遠藤典子)

 6月末、カナダ・トロントで開かれたG20首脳会合(サミット)の共同声明には、「ストラクチュアル・リフォーム(Structural reforms)」という言葉が多用された。日本語に直訳すると、「構造改革」である。

 仙谷由人内閣官房長官や玄葉光一郎民主党政調会長は、声明文の日本語版にこの訳語を使うことに強い抵抗感を示した。民主党が批判し続けた「小泉構造改革」を思い起こさせるものだったからだ。

 民主党は選挙のたびに、「反小泉色」を強め、得票の拡大に成功してきた。政権交代を実現した直後、連立を組む民主党、社会民主党、国民新党の3党合意文書には、「小泉内閣が主導した競争至上主義の経済政策をはじめとした相次ぐ自公政権の失敗によって、国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安は増大し、社会保障・教育のセーフティネットはほころびを露呈している」とあった。与党ばかりではない。下野した自民党もマニフェストに、「近年の行き過ぎた市場原理主義とは決別すべき」と書いた。

 市場重視から政府の役割拡大へという方針転換は、菅政権にも受け継がれた。6月11日に行った所信表明演説、18日に閣議決定した「新成長戦略」では、「行き過ぎた市場原理主義に基づき、供給サイドに偏った、生産性重視の経済政策」と、小泉路線を「第2の道」として否定した。「第1の道」は、小泉政権以前の自民党による公共事業中心の経済政策である。この二つの道を共に拒絶し、経済低迷を打開するために「第3の道」を追求すると宣言したのだった。

「増税で経済成長」説く
小野理論成立の前提条件

 先の参議院選挙に惨敗し、菅政権は揺らいでいる。主因は、消費増税宣言だといわれる。公示直前に消費増税を持ち出した理由は多々あろうが、そもそも「第3の道」が、「増税による経済成長」政策なのだ(上図参照)。この政策の理論的支柱は、内閣府参与を務める大阪大学社会経済研究所所長の小野善康教授である。