米GEは、インダストリービジネスへの「選択と集中」を進めるためにGEキャピタルの売却を決めた。これを受けて日本GE株式会社GEキャピタルも、2016年4月に三井住友ファイナンス&リース(SMFL)のグループ会社となり、日本GE合同会社として再スタートを切った。GE時代から社長を引き継いだ安渕聖司社長が、「選択と集中」による「変化力に満ちた経営」の神髄を披歴する。

ひるまずに「選択と集中」をどう判断するかPhoto by Yoshihisa Wada

事業再編に一切のタブー、ためらいがあってはならない

 今回のGEキャピタルの売却は、GEの「選択と集中」戦略の厳しさに、改めて尊敬さえおぼえるものだった。戦略遂行力の強さや確かさを当事者であるからこそ感じるのである。

 2001年にGE9代目の会長職にジェフリー・イメルトが就き、その後、インダストリービジネスへの注力と金融事業の再編が進められてきた。それでもなおGEキャピタルは、2007年にはGEグループの営業利益の約7割を生み出していた。

 GEキャピタルは、その利益でGEのR&D資金を確保するという大きな任務を持っていた時期がある。しかし金融サービスが高度化してR&Dをファンディングすることができるようになる一方で、3Dプリンターに象徴されるような製造業の大きな構造変化が起きている。

 今回のGEキャピタルの売却には、「現代の金融は専業の形態で行われるべきだ」という取締役会とイメルトの決断がある。それは「5年後、10年後の世界」を見据えた決断だ。

 また、売却して事業全体が縮小したのでは意味がないが、売却資金を元にアルストムを買収したりもしている。アルストムの買収は、何十年に一度あるかないかのM&Aチャンスだ。そのチャンスを着実につかみ、変革を加速させる。そういう戦略なのである。

 振り返ってみても、GEの事業再編には本当にためらいがない。例えばGEキャピタルの前にはプラスチック事業が売却された。

 アポロが月に行った1960年代、宇宙飛行士のヘルメットに使われたのがGEのプラスチックだった。プラスチック事業は、GEにとってはいわば名門事業であり、8代目会長のジャック・ウェルチも、現会長のイメルトも共にプラスチック事業部門の出身だ。

 それほどの名門事業であってもGEは、「変化するために売る」ことにためらいを見せなかった。「自分たちが経営して継続的にしっかりとした結果を出せるか」「必要な原材料や経営資源をきちんと手に入れられるか」。それらについて常に、そして詳細にチェックを繰り返してきた。

 何らかの理由で自分たちがコントロールできなくなっていたり、技術や人材などの資源を持っていないと分かれば、「では誰が、どのような形で経営することがいちばん良いのか」「上場したり売却したりした方が社会から正しい評価を得られるだろう」などと駒を進める。

 そこには「祖業だから」とか「かつての大黒柱だから」とか「トップの出身部門だから」などという事情は一切忖度されない。

 翻って日本企業であればどうだったろうか。GEキャピタルほどの営業利益を生み出している“虎の子部門”を売却するとなれば、社内はもちろんメーンバンク、株主も含めて大騒ぎになっていたに違いない。

 GEにとっても今現在、事業が稼げているかどうかは重要だが、それ以上に事業が将来のGEの持続的な成長につながるかどうかがもっと重要なのだ。経営者には、未来像を示し、未来への布石を打つ構想力そのものが問われる。

 そのための変革の経営こそGEの神髄であり、私も2006年に当時のGEコマーシャル・ファイナンスに入社以来、経営者として徹底的にたたき込まれてきたものである。

 日本GE合同会社は、資本こそ離れたが依然としてGEに一番近い金融サービス業者であり、GEの動向を見ながら連携したり、GEによって汲み出された新しいニーズを親会社であるSMFLにつなげていく形になるだろう。そこには変革の経営の精神を受け継ぐことも含まれている。