『幸せになる勇気』を読んで、自分だけの幸せでなく、相手と一緒に幸せになる大切さに気付いたという小林麻耶さん。鼎談後半では、「どんなにほめられても、表面的なウソだと思っていた」小林さんが、徐々に幸せを得るための真理に近づいていきます。「幸せになる勇気」を実践するには、どうすればいいのか?3人の語りによって、そのヒントが見えてくるはずです。(構成:室谷明津子、写真:田口沙織)

「ただ存在するだけでいい」と
感じることの難しさ

岸見一郎(以下、岸見) 結婚をすると自由が束縛されるから嫌だと言う若い人は多いですが、小林さんはどう思いますか。

小林麻耶(こばやし・まや)
フリーアナウンサー、キャスター。1979年新潟県小千谷市生まれ。青山学院大学文学部英米文学学科卒業後、2003年TBSに入社。「チューボーですよ!」「世界・ふしぎ発見!」「王様のブランチ」など数多くの人気番組で活躍。2009年3月にフリーとなった後も「総力報道!THE NEWS」「がっちりアカデミー」「小林麻耶の本に会いたい」など、ニュース、バラエティとマルチに活躍している。「バイキング」「テレビでロシア語」「誰だって波瀾爆笑」などにも出演。オフィシャルブログ「まや★日記」

小林麻耶(以下、小林) 私も以前はそう思っていました。でも『嫌われる勇気』を読んで、他人の要求を満たすよりも自分の思いを大切にして生きるという考え方にシフトできたので、いまは結婚しても相手に自由を奪われるとは思いません。それでもまだ、『幸せになる勇気』に出てくる、相手が自分のことを「ただ存在するだけでいい」と感じてくれる関係にリアリティをもつことはできません。役に立つとか、何か相手にメリットがないと愛されないのではないかと思ってしまいます。

古賀史健(以下、古賀) 岸見先生は、お父様の介護をしていたときに、「生きているだけでうれしい」と感じたそうですね。

岸見 当時は、とにかく父が息をしているだけでうれしかった。今日一日を一緒に過ごせてありがとうという気持ちでした。父は何もしないでただ生きているだけで、私に貢献していた。同じようにわれわれ自身も、行為ではなく存在によって周囲に貢献していると思いたいのです。そう思えないと、相手への行為の見返りとして、愛を求めるようになってしまいます。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。世界各国でベストセラーとなり、アドラー心理学の新しい古典となった前作『嫌われる勇気』執筆後は、アドラーが生前そうであったように、世界をより善いところとするため、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』など。『幸せになる勇気』では原案を担当。

小林 家族や友人には「いてくれるだけでいい」と思えるのですが、自分自身もそういう存在だとはなかなか思えない。ここが大きな突破口のようです。

岸見 小林さんは、いままさに過渡期にいるのでしょうね。これまでの自分の価値観に身を置いたまま、新しい価値観のほうに手を伸ばそうとしている。次のステップを上るには、いくつか課題があるようです。アドラーは、人がこれまでと違う生き方を選ぶことは、それまでの自分の死を意味するとまで言っていますから、確かに容易なことではありません。

古賀 人は誰でも「このままでいいんだ」と思いたい。今までの自分を葬り去り、新しい人生を選ぶのはそれほど難しいことだとアドラーは言っています。「愛される人生」から「愛する人生」に目的を転換するのは、頭でわかっても、実際にやろうとするとかなり大変な作業だと、僕も思います。