各種技能検定の受検セミナーや、ビジネスマナーの習得、面接や筆記試験の対策講座など多彩なラインナップを提供する大学も少なくない。文部科学省でも、優れた取り組みを選定して補助金を出すなどの支援を行っている。

「これらの取り組みは、学生にとっても企業にとっても、大変有意義」と、武並氏も評価する。というのも「新卒学生を採用しようとする企業が重視する点は、一つは仕事に対する意欲やがんばる姿勢、もう一つはコミュニケーション能力、そして地頭(じあたま)の三つであることは変わりません。就職について競争が激しくなっている今、学校教育の最後の機会である大学で、この三点を磨くことが大変重要だからです」(武並氏)。

 どの企業も、変化の激しい時代にあって、柔軟に対応できる学生を求めている。これら三つの基本的な力があってこそ、対応力があると考えられるわけだ。加えて、即戦力となることもまた期待されている。経営環境が厳しさを増すなかで、新人教育にかけるコストをできるだけ抑制したいと考える企業が多いからだ。このため、ビジネススキルの習得に大学が力を入れることになる。

 キャリア教育には、企業から選ばれる人材を育成するだけでなく、学生自身が企業を選び取る力を備える側面もある。

 キャリアマートの調査によると、会社説明会に参加後、学生が選考に進みたいと思う判断のポイントは、仕事内容や事業内容に続いて、社員の人柄、職場の雰囲気・社風が上位に挙がった。「私の経験からしても、企業の中身まで見極めて就職した場合、長く勤め続ける傾向にあるようです」と、武並氏は明かす。

 また、学生対象の人気企業ランキングなどでは、BtoCの企業に人気が集中する傾向が強い。しかしながら、「世の中では、BtoBの企業が圧倒的に多いのが現実です。社会の仕組み、企業の果たす役割などについて幅広い視野を養うことが、自分に合う、長く続けたい仕事を見つけることに役立ちます」(武並氏)。

 将来どうなっていきたいのか、ビジョンを明確にするとともに、幅広く社会を見る目を養えば、自分に合った就職先探しにつながるというわけだ。

 もちろん、社会に出るために必要な力をすべて大学が与えてくれるわけではない。「サークル活動やアルバイトに目的意識を持って取り組むなど、学生自身が4年間という時間を有効に活用する努力が大切なことは言うまでもありません」。

夢の実現に向け
共に歩む大学を探す

「大学選びで就職力に注目する際、就職率という数字だけにとらわれるのは問題です」と、武並氏は注意を促す。むしろ、夢の実現に向けたステップを一緒に踏んでくれる大学を選ぶことが重要だという。そのためには、人生の目標、大学で学ぶ目的についてあらかじめ考えておかなければならない。そのうえで、大学の教育理念やカルチャー、カリキュラムを検討していく。大学説明会やオープンキャンパスなどを通じて、実際の大学の様子に触れることも大切だ。

 武並氏は「学部や学科に特徴があり、そこを出たなら信頼が置けるという定評を得ている大学もあります」と言う。大学全体のネームバリューだけでなく、学部・学科の特色にも目を向けるようにしたい。なにより、自分にとって就職力を上げてくれる大学となるのかを、多くの情報から見極めたいところだ。
 

※「週刊ダイヤモンド」9月11日号も併せてご参照ください。
※この特集の情報は2010年9月6日現在のものです。