世紀のスクープといわれる「パナマ文書」は、世界の富裕層や多国籍企業が課税から逃れている姿をあぶり出した。経済活動のグローバル化に、国際課税ルールが追い付いていないのだ。2011年6月からOECD租税委員会の議長を務める財務省の浅川雅嗣財務官が、課税逃れ対策のいまとこれからを語る。(「週刊ダイヤモンド」編集部 原 英次郎)

「租税委員会議長、京都の拡大BEPS会合、パナマとの初の協定と税の世界では、日本は世界をリードしている」(浅川雅嗣財務官) Photo by Takahisa Suzuki

「パナマ文書」が提起している問題を整理すれば、租税回避、脱税、マネーロンダリング(マネロン=資金洗浄)となる。こうした問題を早くから意識し、その対策を講じてきたのが、OECD(経済協力開発機構)租税委員会だ。

 租税委員会は歴史のある委員会で、特に国際課税の分野で大きな貢献をしてきました。

 典型的な例が「二重課税」問題です。例えば、日本企業が米国に進出して利益を上げると、米国で上げた利益なので、米国は──これを源泉地国といいますが──課税権を行使します。一方、日本企業なので、日本にも──これを居住地国といいますが──課税権が発生する。企業は源泉地国と居住地国から二重に課税されてはたまらないので、これを排除するための国際課税のルール作りを、租税委員会が先導してきました。

 租税回避とは、違法ではないが各国間の税率の違いなどを活用して税負担を軽くする行為で、「税源浸食と利益移転(BEPS=Base Erosion and Profit Shifting)」と呼ばれる。租税委員会は浅川議長の下、BEPSを抑制するために、12年6月に「BEPSプロジェクト」を立ち上げた。

 BEPSで問題になったのは、二重課税ではなく、「二重“非”課税」です。結局、源泉地国でも居住地国でも課税されない。具体的には、多国籍企業がいろいろなテクニックを使って低税率国に利益を移転させ、税源を移出させている。つまり、BEPSは利益を上げている国で、正当に税金が納められるべきであるという、税の本質に関わる問題なのです。

 BEPSプロジェクトでは15の行動計画をまとめ、昨年10月に最終報告書を公表しました。プロジェクトの特色は、OECD加盟の34カ国だけでなくG20参加国も合わせて44カ国でまとめたこと、税率は国家主権に関わるので税率には触れずに、国際課税のルールを修正していくことによって、BEPSを防止していくということです。OECDの勧告に基づいて、各国が国内法や租税条約を変えることが期待されます。

 新興国などからもBEPSグループに入りたいという希望があったので、この6月末に京都で開かれる租税委員会に合わせて招待状を出しています。この拡大BEPS会合には100を超える国が参加する勢いです。この京都の租税委員会では、タックスヘイブンを特定する定義も決めます。