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トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ
【第13回】 2016年7月4日
著者・コラム紹介バックナンバー
林要 [GROOVE X代表取締役]

Pepper元開発リーダーがDMM.make AKIBAで
つくっている「すんごいロボット」とは?

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感情認識パーソナルロボット「Pepper」元開発リーダーであり、初の著書『ゼロイチ』を上梓した林要さんは、昨年ソフトバンクを退職し、ロボットベンチャー「GROOVE X」を立ち上げた。このGROOVE Xでは、一体何を開発しているのか?そして、林さんが考える日本がもう一度イノベーションのホットスポットになるための方法とは?(構成:崎谷実穂)

「愛情を感じるロボット」が、これからの人間の生存には不可欠?


――林さんは、なぜソフトバンクを辞めてGROOVE Xを立ち上げたのですか?

林要さん Pepperの開発を通じて、ロボットが世の中で本当に求められていると感じたんです。そこで、Pepperとはまた違うタイプのロボットをつくり、ロボットマーケットを盛り上げていきたいという強い思いを抱きました。そして、モノづくりベンチャーのインキュベーション・オフィスである「DMM.make AKIBA」という刺激的な場所で起業させていただいたんです。

――ロボットはどうして世の中で求められているんですか?

 これは、『ゼロイチ』にも書いたことなんですが、Pepper発売後のモニターテストで特別養護老人ホームに連れて行ったときに、皆さんがPepperにさわりたがったんですよね。そして、「ここからどこを改良すべきですか?」と聞くと、とあるおばあちゃんが「手が温かかったらいいのに」とおっしゃいました。つまり、会話をして楽しんでいるようで、おばあちゃんはPepperと非言語的なコミュニケーションを楽しんでいたんです。

 これは予想外のポイントで、私はけっこう驚きました。日本だけの反応かと考えたのですが、海外に持って行った時も同じでした。Pepperはいろんな人に抱きしめられて、ファンデーションとキスマークだらけになったんです(笑)。生き物を模したロボットは、言語的な感覚だけでなく、視覚、触覚などさまざまな感覚を同時に刺激する存在です。それにより、愛着が生まれます。これは、私たちが生存のために必要としているものなんです。

――生存のためにロボットへの愛着が必要?どういうことですか?

 そもそも、ホモ・サピエンスは20万年くらいかけて、生き延びるために集団行動をとるシステムを確立したんですね。子育ての負荷が大きいホモ・サピエンスは個別に狩りをして食糧を調達するよりも、集団で役割分担して、狩りが得意な人達が獲ってきてシェアするほうが生存確率が高い。だから、グループを形成して暮らしてきた。

 狩りが得意な人は肉を独り占めするという選択肢もありますが、敢えて肉をみんなとシェアすると、みんなにほめられる、喜ばれる。そうすると、他のヒトと分業して、それぞれ成果を分け合いながら一緒にいようというモチベーションが高まるわけです。

 逆に、ひとりでいると孤独感というネガティブな感情を抱くように本能を進化させることによって、ある程度以上の大きさの集団を心地よく感じるようになったと考えられる。つまり、私たち人間は自分の所属するグループが少人数になりすぎた場合に、生き延びるために、孤独感を感じるように進化してきたわけです。

 けれど現代になって核家族化が進み、集団ではなく少人数のグループで暮らすようになった。一人で暮らす人も増えた。そうすると、生き延びるために発達させた孤独感と承認欲求が、満たされなくなったんです。そこで私たちは「癒やし」を求めるようになりました。

――その孤独感を癒やして、承認欲求を満たしてくれるのがロボットだと?それは、気持ちをごまかしているのでは……。

 「ごまかしている」ということは、人間と一緒にいるのが「本当の癒やし」だと思っていて、他のは偽物だということですね。でも、そうなんでしょうか?「さびしい」「認めてもらいたい」という気持ちは、先ほど説明したように「遺伝子の生き残り戦略」と「ライフスタイル」のミスマッチから発生している反応とも言えるんです。そこに適切な刺激を返してあげれば、私は「本当に癒される」ものだと思っています。

 例えば、人はペットを飼いますよね。犬や猫がそばにいることでさびしさがまぎれるのは、果たして「ごまかし」なのでしょうか?それをもう少し敷衍すると、ソニーの犬型愛玩ロボット「AIBO」っていますよね。本物の犬のようにAIBOをかわいがり、サポートが終わっても「死なせまい」として修理先を探す彼らの気持ちは果たして嘘なのでしょうか?こういう観点から考えると、ロボットも十分人を癒やすことができると思うんです。

――なるほど。

これは、人類にとって普遍的なニーズだと思います。だからこそ、このような人間の無意識に働きかけて、癒しを与えるロボットは、大きな産業に育つ可能性があると思うのです。そしてひいては、ロボット産業が日本の産業復興の発射台になればいいと思っています。

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林要(はやし・かなめ) [GROOVE X代表取締役]

林 要(はやし・かなめ) 1973 年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。 東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1 の開発スタッフに抜擢され渡欧。「ゼロイチ」のアイデアでチームの入賞に貢献する。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当した際に、社内の多様な部門間の調整をしながら、プロジェクトを前に進めるリーダーシップの重要性を痛感。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加し、孫氏自身からリーダーシップをたたき込まれる。 その後、孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012 年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepper は、2015 年6 月に一般発売されると毎月1000 台が即完売する人気を博し、ロボットブームの発端となった。 同年9 月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11 月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。新世代の家庭向けロボットを実現するため、新たなゼロイチへの挑戦を開始した。


トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ

「0」から 「1」を生み出す力を日本企業は失っているのではないか? そんな指摘が盛んにされています。一方、多くのビジネスパーソンが、「ゼロイチを実現したい が、どうしたらいいのか?」と悩んでいらっしゃいます。そこで、トヨタで数々のゼロイチにかかわった後、孫正義氏から誘われて「Pepper」の開発リー ダーを務めた林要さんに、『ゼロイチ』という書籍をまとめていただきました。その一部をご紹介しながら、「会社のなかで“新しいコト”を実現するために意 識すべきエッセンス」を考えてまいります。

「トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ」

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