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ウソはバレる ― 「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング
【第2回】 2016年7月11日
著者・コラム紹介バックナンバー
イタマール・サイモンソン,エマニュエル・ローゼン,千葉敏生

ブランドを「殺した」のは誰だ?
ある「高級」チョコレート店の悲劇

ブランディング、ポジショニング、顧客ロイヤルティ……。マーケティングの「定説」の数々は、「スマホ」や「レビュー・サイト」によってその9割が無力化された――。
本連載第1回では、そんな「すでに起こっている現実」を、『ウソはバレる』の訳者・千葉敏生氏のコメントを紹介して示した。要するに、どんな素晴らしい広告コピーやブランド・メッセージであろうと、「盛れば見抜かれる」のだ。では、消費者は「どこまで」見抜くことができ、その後はブランドに対してどんな行動を起こすのだろう。

101もの「低評価」をいただいた有名ブランド
──「やっぱりクルマはドイツ製」なんて過去の話

 正確な情報が手に入らないとき、消費者が質の判断基準として用いるものは、ブランド以外にもいくつかある。それらもブランドと同じで、今後はあまり重要でなくなっていくだろう。1つは製造国だ。スイス製の時計、ドイツ製の車、イタリア製のエスプレッソ・マシンと聞くと、「高品質に違いない」と思う人が多いだろう。

 製造国は、詳しい情報がない場合にはなかなかの質の判断基準になりうる。しかし、質を予測する手段としてはさほど当てにならない。私たちの調べでは、イタリアにはエスプレッソ・マシンのメーカーが20以上もあった。それらのメーカーの作るすべてのマシンが、ドイツやアメリカなどで作られるマシンより高品質だと考えるのは不合理だ。

 こんな例がある。イタリアの「デロンギ」は有名ブランドであり、確かにイタリア製のエスプレッソ・マシンはすばらしいと評判だ。しかし、「DeLonghi BCO120T Combination Coffee/EspressoMachine」というモデルだけを取って見ると、アマゾンのウェブサイトでこの製品をレビューした130人のうち、101人が1つ星か2つ星と評価している。その多くは、数週間や数ヵ月で水漏れや故障を起こした、と嘆いている。オハイオ州のある女性が書いたのは典型的な1つ星レビューだ。使いはじめて7ヵ月で動かなくなった。修理してもらったが4ヵ月後にまた同じ問題が起きた、と。別の購入者は、「床に飛び散った水でモップがけができるくらい水漏れが激しい」と報告した。86個の1つ星のレビューをすべて読まなくても、このモデルはどうやら「問題あり」だとわかる。

 つまり、たとえイタリア製であっても、ほかの消費者の実体験を知ることができるなら、製造国は質を判断する材料にはなりにくい、ということだ。(『ウソはバレる』106-107ページより抜粋)

 ブランドが発するメッセージを疑い、隙あらば「真実」を暴き立てる。しかも、時にユーモアに富んだやり方で。「床に飛び散った水でモップがけができるくらい水漏れが激しい」なんて、買う気持ちを萎えさせるには十分すぎるコメントだ。
 つくり手や売り手の思いや考えなどお構いなしの世の中になってしまったが、もし、ブランド・メッセージが「盛って」あろうものなら、事態はさらに悪くなる。次は、ある「高級」チョコレート店の物語だ。自業自得だ、とあざ笑うのか、教訓とするかは、読者諸氏にお任せしたい。

ある「高級」チョコレート店の悲劇と教訓
――「化けの皮」は瞬時に剥がされる

 質の大きな判断基準のなかで、ますます当てにならなくなっているのが価格である。質を評価するのが難しかった時代には、価格が質を予測する便利な近道だった。「高いからにはいいものなのだろう」とか「価値は出したお金に比例する」という理屈だ(それを言い訳にお金を使ってしまうのだが)。これらは過去の教訓とやらに基づく経験則なのだが、ここにも新しい環境の影響が見られる。

ノカ・チョコレート(NoKA Chocolate)の話はその実例かもしれない(編集部注:実際のブランド名ではNoKAの「o」の上に小さな横棒(マクロン)がある)。ノカ・チョコレートが業界に颯爽と現れたのは2004年。目玉の飛び出るようなその価格でたちまち注目を集めた。1ポンド(約450グラム)あたり309~2080ドルという価格で、ノカは自身のブランドを「ダーク・チョコレートのロールス・ロイス」と位置づけようとしたのだろう。

 しかしそんなとき、ダラスのあるフード・ブログが10回にわたる詳細なシリーズ記事を発表した。ノカ・チョコレートのマーケティング文句に疑問を呈し、商品を評価したうえで、価格に見合う価値はない、と結論づけたのだ。

 私たちがノカ・チョコレートの詳細を調べようと、オンライン検索をしてみたところ、「ノカ・チョコレートのウソが発覚!」とか「ノカ・チョコレートは詐欺」というブログ記事がすぐに見つかった。2013年7月時点で、企業のウェブサイトはしばらく更新が滞っている。どうやら、「高値作戦」は失敗したようだ。高級感のあるロゴや、どこか空想的な場所を連想させる「o」の上の小さな横棒も、ある高級デパートがこの商品を選んだという事実も足しにはならなかったと見える。一方、ノカ・チョコレートが実はテキサス州の小さなショッピング・モールで作られているというブログ記事は、わずか数ヵ月で75万人近くに読まれた。(『ウソはバレる』107-109ページより抜粋)

「顧客はすべてお見通し」。それだけでも売り手にとっては脅威だが、それだけでは終わらないのだ。見抜いた消費者は、必ず「声」をあげる。これは、消費者がつながりあったこれからの世界でビジネスをする人すべてが心に刻んでおくべきことだろう。(構成:編集部 廣畑達也)

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イタマール・サイモンソン(Itamar Simonson)

スタンフォード大学ビジネススクールのセバスチャン・S・クレスゲ・マーケティング教授。消費者の意思決定に関する世界的な権威と評されていて、これまでに、消費者の選択、買い手の意思決定を動かす要因、マスカスタマイゼーションの限界など、マーケティングの中心的な概念について、新たな知見をもたらしてきた。その研究は数々の賞を受賞しているだけでなく、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど、世界じゅうのメディアで取り上げられている。
スタンフォード大学では、マーケティング・マネジメント、批評的・分析的思考、企業向けマーケティング、テクノロジー・マーケティング分野のMBA課程や、消費者行動、消費者調査手法、意思決定分野の博士課程で教鞭をとってきた。また、マーケティングや意思決定分野の有名学術誌の9つの編集委員会にも名を連ねている。

エマニュエル・ローゼン(Emanuel Rosen)

ベストセラーとなった『クチコミはこうしてつくられる』(日本経済新聞出版社)の著者。同書で「口コミ・マーケティング」の時代の到来を予見し、後に実現したことで注目を集めた。
かつてナイルズ・ソフトウェア社のマーケティング担当副社長として、同社の主力商品「EndNote」をリリース。精力的に講演もこなし、グーグル、インテル、ナイキ等の企業をはじめ、世界じゅうのフォーラムで観衆を惹きつけてきた。コピーライターとしての顔も持ち、「カンヌ国際広告祭(現カンヌライオンズ)」で2度の受賞歴を持つ。
他の著書に、The Anatomy of Buzz Revisited(未邦訳)がある。
 

千葉敏生(ちば・としお)

翻訳家。1979年神奈川県生まれ。早稲田大学理工学部数理科学科卒業。訳書に、ジョン・コルコ『ひらめきをデザインする』、ティム・ブラウン『デザイン思考が世界を変える』、チップ・ハース&ダン・ハース『スイッチ!』、『決定力!』(以上、早川書房)、トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー『クリエイティブ・マインドセット』(日経BP社)、ドナルド・トンプソン『普通の人たちを予言者に変える「予測市場」という新戦略』(ダイヤモンド社)などがある。


ウソはバレる ― 「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング

×「企業のブランドは今まで以上に重要である」
×「ロイヤルティを築くことがマーケターの日々の大事な仕事」
×「顧客はみんな不合理だ」
×「過剰な選択肢は人々を麻痺させることがある」
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