農業者はTPPに反対か?
TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に参加するかどうかという問題は、国論を大きく二分している。多くの農業関係者が反対の声をあげ、東京で大きな反対集会を開き、霞が関をデモした。TPPに反対する著作が書店で平積みになり、ベストセラー入りもしている。
それでも、経済学者でも政治学者でも、私が知る限り、尊敬に値する研究者の大半はTPPへの参加が日本にとっては必要であると言う。新聞社が行うアンケートでも、TPPへの参加に賛成する人が過半数であるようだ(日経新聞〈2011年10月23日〉、時事通信〈12年7月13日〉、朝日新聞〈12年8月28日〉)。
農業関係者はTPPに反対であるというイメージが強いようだが、これも新聞社のアンケートによると、農業者のなかにもTPP参加に賛成の人が意外に多いということがわかった(日経新聞〈12年7月27日〉)。私が関係しているプロ農家の集まりでは、大半の人がTPPの交渉に前向きの姿勢を示している。
ある有名なコメ農家の方は次のように言っていた。「今の日本の農政は問題が多すぎる。兼業農家の保護が強すぎて、このままの状態を続けていたら日本の農業はダメになる。TPPへの参加をきっかけにして日本の農政が変わることを期待したい」と。
プロ農家の方々と付き合うとよくわかることだが、農家をひとくくりでまとめることはできない。農業を主な仕事としているのがプロ農家(専業農家)。それに対して、収入の過半が役所や工場での労働によるもので、農業を片手間にやっているのが兼業農家。同じ農家でもまったく違った存在である。
将来の日本の食料生産や産業としての農業を重視するなら、プロ農家を支援しなくてはいけない。しかし、目先の「農民票」を重視するなら、兼業農家を無視できない。日本全体の農業にとって好ましいことと、政治の動きの間に大きな乖離がある。