日本人観光客にギリシャを売り込む仕事は難しい。ギリシャ政府観光局の小玉久美さん(35歳)が言う。

「債務危機でもギリシャはこんなに元気ですよとアピールしたら、『もっと危機感を持て』と言われそうですし、かといって、こんなに大変な状況ですと説明すると、『じゃあ、やっぱり行くのをやめよう』と思われそうで……」

 まったくもって、ジレンマだ。それでも、PRしなければならない事情がある。ギリシャの主たる産業は海運業と観光である。ギリシャが債務危機から立ち直るためには、どうしたって経済を盛り上げなければならず、それには、より多くの観光客を引きつけなければならないのだ。

 微力ながら筆者もそれに一役買えないだろうかと思い、日本にあるギリシャ政府観光局を訪れることにした。

生活臭のしない美しいギリシャでは
なぜ人間よりも猫が多いのか 

 ギリシャ政府観光局は、JR四ッ谷駅から歩いて数分のところにある。以前は赤坂にあったが、コスト削減のため、四谷にある雑居ビルの7階に引っ越して来たという。こじんまりしたオフィスでは、3人の日本人ローカルスタッフが働いている。ギリシャへの留学経験もある小玉さんの入局は2007年で、メディア&PR担当である。

 まずは、机の上にギリシャ地図を広げていただき、その正確な位置を把握する。考えてみれば、ギリシャの地図をまじまじと眺めるのはこれが初めてだ。

「ギリシャって、こんなに島が多い国だったんですね……」

「そうなんですよ。島は本当に美しくて、観光に行った方は『どこがいったい経済危機なの?』っておっしゃる方もいるんですけれど」と、小玉さんが説明する。

 北側には、アルバニアやマケドニア、ブルガリアといった国が見える。東側は、ギリシャ人にとっての永遠のライバル、トルコである。

「じつは、ギリシャの観光案内を読んでいて気になったことがありまして。ギリシャをPRする写真には必ずと言っていいほど青い空と美しいエーゲ海、真っ白な建物が写っているのですが、なぜか人間の影が薄いですね。あまり生活臭がしないと言いますか……」

「そう言われれば、そうですね」

「それと、どうしてこんなに猫が多いんでしょうか?」

 参考までに、と見せていただいた雑誌のギリシャ特集もなぜか、猫の写真だらけである。