4月1日、政府が38年ぶりに武器輸出三原則を見直し、輸出解禁へとかじを切る格好で、条件付きながら軍需企業の〝開国〟を決めた。長年、日陰の存在だった日本の軍需産業が大転換期に突入した今、この流れに軍需企業はどう対応するのか。

 5月30日からの3日間、シンガポールの中心地にあるシャングリ・ラ ホテルには、軍服姿の屈強な男たちが世界中から詰め掛けていた。

 アジア太平洋地域を中心に各国の国防大臣が一堂に会するアジア安全保障会議、通称「シャングリラ会合」に出席するためだ。

 今年は日本の総理大臣としては初めて安倍晋三首相が参加したほか、ヘーゲル米国防長官も出席した。海洋進出を強める中国をけん制するパワーゲームが繰り広げられ、話題を呼んだが、実のところ、水面下では日本が話題の中心だった。

 「日本からの参加者に対する反応が例年とは明らかに違った」と話す自衛隊関係者は、さらに「日本の武器輸出への期待感が高まっていて、複数の国防関係者から輸出に関する相談を受けた」ことを明かした。

 きっかけはちょうど2カ月前の一大方針転換だ。4月1日に政府が38年ぶりに武器輸出三原則を見直し、事実上の解禁に踏み切ったのだ。

 日本側への接触のうごめきはその直後から活発化していた。

 政府が新三原則を発表してから数日後の午前7時すぎ、政府高官の1人は東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急へと足を向けた。

 首相官邸や議員会館の裏手という土地柄、3階に入るレストラン「ORIGAMI」は国会議員や政府関係者の御用達だ。

 その一番奥まったところにある個室で、入り口を背にして円卓に腰を下ろした政府高官は、4000円以上もする和定食を頬張りながら、東南アジアのある国がいかに日本の兵器に強い興味を示しているか、関係者から詳しい説明を受けた。

 情報交換を継続することで合意し、その場はお開きとなったが、日本の兵器にラブコールを送っているのは、この国だけではない。

 日本政府が三原則の見直しを本格化させた昨年末から、「海外の国防関係者が日本の防衛関連企業にアプローチする動きが目立ち始めた」と防衛省幹部は打ち明ける。

 さらに三原則見直しが正式に決まると、その流れが一気に加速し、その一環でORIGAMIでの秘密会合が設定されたというわけだ。

 防衛省は昨年来、イタリア、ドイツ、ノルウェーといった欧州勢をはじめ、バーレーンやイスラエル、ベトナムといった計11カ国と、兵器や技術協力で協議していることを明らかにしている。

 ただ、駐在武官経験のある幹部自衛官が「私が直接相談を受けた国だけで、タイやマレーシアなど複数あり、日本の護衛艦や潜水艦を中古でいいので欲しいと持ち掛けてきた」と語るように、防衛省が公表している国以外にも、非公式に複数の国が日本側に接触しているとされる。

 国際的な〝防衛マフィア〟の世界で、にわかに熱視線を浴びる中、日本の軍需産業と防衛省は6月16日から、フランスのパリで開催される国際武器展示会「ユーロサトリ」にチームジャパンとして、初めて本格参戦する。

 「日本パビリオン」には、三菱重工や東芝、富士通など国内の防衛大手10社が参加する予定だ。さらに、それとは別に日本関連の企業4社も出展を計画している。

 日本勢としては、武器輸出を容認する新三原則への転換を受けて、警戒監視や輸送、救難、掃海といった分野で活躍する兵器の輸出先開拓につなげたいところだ。

 ただ、「防衛省からブースを出してほしいと要請があったから出展するが、初めての経験なので、いきなり実機をバーンと出すのではなく、こぢんまりとしたブースに、模型やパネルを並べる予定」。そう参加予定の企業が語る通り、日本の軍需産業には、不安と戸惑いがあるようだ。

韓国の後塵を拝する
日本の軍需産業

 確かに、日本は国際武器市場における基本的なマナーを知らない。その点については、防衛省も問題意識を持っており、堀地徹装備政策課長は、「下手をすると、海外の巨大軍需企業の部品供給メーカーになってしまいかねない。彼らにのみ込まれないよう、上手に経験を積んでいくしかない」と警戒している。

 武器輸出の最新国別シェアでは米国が1位で、ロシアがそれに続く。そして躍進著しいのが、中国だという。

 「安価な武器を大量にアジア諸国にばらまいている。自国で武器を製造できない国はそれに依存せざるを得ないが、中国に自国の軍事力を推定されることを嫌がっている国は多い」(防衛業界関係者)。その意味で食い込む余地は決して小さくない。

 うまく割って入っているのが、お隣の韓国だ。東南アジア諸国で輸出を伸ばしており、技術力では劣る国の後塵を拝しているのが日本の現状なのだ。シャングリラ会合に出席した自衛隊関係者は、「中国以外は日本の武器輸出はウエルカムで、ニーズは間違いなくある。問題はそれに日本企業が応えられるか」と、日本の軍需産業の奮起を期待する。ただ、徒手空拳で欧米の巨大軍需企業が牛耳る国際武器市場に打って出るわけにはいかない。

 『週刊ダイヤモンド』6月21日号の特集では、「自衛隊と日本の軍事ビジネスの秘密」と題し、日本の軍需産業の課題と可能性を探りました。

 4月1日、政府が38年ぶりに武器輸出三原則を見直し、事実上の輸出解禁へとかじを切る格好で、条件付きながら軍需企業の〝開国〟を決めました。長年、日陰の存在だった日本の軍需産業が大転換期に突入した今、この流れに軍需企業がどう対応するのかを追うとともに、ベールに包まれていた国内の軍事ビジネスの裏側に迫りました。

 同時に、これまで日本の防衛を担ってきた自衛隊にもメスを入れました。陸海空に22万人もの人員を抱える自衛隊という巨大組織は、いかにして「経営」されているのか。自衛隊内の権力構造から出世、天下り先まで、その秘密を徹底解剖しています。