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【サイコス社長 青葉哲郎 第5回 現代美術をカジュアルに買う時代へ】

 

 先日、久しぶりに面白い映画を見た。「ハーブ&ドロシー」というドキュメンタリー映画だ。昨年11月から東京で単館上映され、すぐに全国各地30館以上の上映が決定し、TVなどでも取り上げられて話題となっている。

 ハーブ&ドロシー・ヴォーゲル夫妻は、マンハッタンに住むごく普通の公務員。しかし、その行動は『ニューヨークタイムズ』など多数メディアで取り上げられ全米で広く知られる。彼らは1LDKの住まいに入るサイズで、かつ給料で買える作品を購入基準とし、30年にわたり、4000点余りのアート作品を収集した。1960年代当時、評価が定まっていなかったミニマルアートやコンセプチュアルアート等の現代美術に狙いを定め、希有なコレクションを築いていった彼らは、そのうちの数点でも売れば大富豪になれたにもかかわらず、一点も売ることはなく、収集した作品をナショナル・ギャラリーに寄付したのだ。この偉業と夫婦のアートへの情熱に感銘をうけた。今回は、アートの世界に目を向けてみたいと思う。

 英『Art News Paper』によると、6年連続で美術鑑賞人口世界一を記録したのが、実は我が国日本なのだ。身内に芸術家がいることもあり、年に数回美術展に足を運ぶことがあるが、人気美術展は毎回驚くほどの長蛇の列。日本人は近代美術が好みで、現代美術作品を購入したり、アーティストを育てる発想・習慣はないのが特長だ。しかし、その傾向に変化が起きつつある。

 最近、「サラリーマンコレクター」と呼ばれる目の肥えた個人コレクターが登場し、収集した作品で展覧会まで開催している。彼らは、財政事情が苦しい地方美術館に寄付金や収集した作品の寄贈を行っている。公立の美術館に作品が入れば、作家の評価が上がるからだ。彼らは、単なる収集を超えて、アーティストを育てること自体に楽しみ・目的・使命感を見出している。日本でもハーブ&ドロシーのような個人コレクターが登場してきたのである。

 現代美術の拡がりは、個人だけではなく企業発信のものある。三菱商事は若手アーティストの育成とキャリア支援を目的とした「アート・ゲート・プログラム」を開催している。将来性のあるアーティストの現代美術作品を、公募により年間約200点、各作品10万円で購入し、その作品を一定期間展示後、チャリティー・オークションにて販売。その売上金を、芸術・美術を志す方々の奨学金として還元する。オークションという場の提供を通じて、現代美術を買う個人が増えるきっかけづくりにもなっている。

 2000年代に入って森美術館や金沢21世紀美術館、国立新美術館など現代美術に重点を置く美術館が相次いでオープン。金沢21世紀美術館においてはその客足も前年比横ばいから増加傾向ということで、現代美術の裾野は広がりだしている。

 現代美術への注目の高まりから、アートを買う内容・意味合いは変わった。かつて、バブル期の高額な有名作品を買って自慢する所有欲のアートから、無名作家の将来性を含めて現代美術を購入し、作家を支援・育成する行為は、新たなカルチャーの芽吹きといえる。アートはファストファッションやファストフードのように、もっとカジュアルなものになっていくのだろう。私が生きているうちに「ファストアート」が登場するのもそう遠くはない。日本人は、現代美術を買う楽しみ、アーティストを育てる喜びに目覚めはじめたばかりだ。

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