“オバマ次期大統領の米国”はどこに向かうのか。村上龍氏が主宰するメルマガJMMのレギュラー執筆者で、最近、『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』(日本経済新聞出版社)を著した米国在住の作家、冷泉彰彦氏は、3つのシナリオを提示する。
冷泉彰彦(れいぜい あきひこ) 作家。米国ニュージャージー州在住。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士課程卒業。出版社勤務を経て、現在は、米国プリンストン日本語学校高等部主任。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に『FROM911 USAレポート』を毎週土曜日寄稿。 |
──バラク・オバマ大統領で、米国はどうなると予想されますか。
オバマ氏には、彼自身が提唱してきた通り、“変化”が期待されています。しかも、なるべく早い時期において。なぜなら、米国の経済状態は、一般に予想されている以上に深刻だからです。
それを示す経済指標が今後、続々と出てきます。ある瞬間、社会の空気は悲観に振れるでしょう。だから、市場は、オバマ氏が正式に大統領に就任する来年1月20日まで待ってくれない。オバマ氏は今すぐ、経済立て直しの政策を示さなければならない。そして、それはブッシュ政権の継承ではダメで、新しい劇的な何かを打ち出す必要があります。オバマ氏も、そう認識していると思います。
──具体的には、どのようなことが考えられますか?
3つのシナリオが考えられます。1つは、従来とは違った面から経済を刺激するというもので、環境規制による刺激策が考えられます。脱石油のエネルギー革命を狙うものです。
まず、思い切った規制が打ち出されます。「何年までにこの数値をクリアしなければいけない」という厳しいCO2(二酸化炭素)排出規制や排ガス規制などです。規制対応に向けて技術革新が起きたり、新興企業や新ビジネスが生まれたりして、経済が活性化する効果があります。規制に対応できない企業には、巨額の補助金を出してサポートすることも考えられます。
イメージとしては、クリントン政権の時に、ゴア副大統領が提唱した「情報ハイウェイ」構想のようなものです。最初はピンと来なかったが、インターネットとして具現化するにつれ、新しいビジネスが隆盛してきました。クリントン政権8年間が終わる2000年まで、一種のバブルとなって、好景気を演出した。
同様のことを環境ビジネスで行ない、うまく行けば、金融業も立ち直るでしょう。今回の経営危機の元凶は金融ビジネスだから、関係者は今でこそ低姿勢にあるが、直にまた、盛り返してきます。生き残ったウォール街の連中が、金融工学と環境を結びつけた新たな金融ビジネスを始めるのではないかと見ています。