「世界中の貧しい子どもたちに本を!」。マイクロソフトの要職を抛(なげう)って、NPO「ルーム・トゥ・リード」を設立したジョン・ウッドは途上国における教育支援に一身を投じた。「教育が未来への希望を生み出す」という熱い志、マイクロソフト流の経営手法に基づくしたたかなビジネスモデル。彼の生き様を通じて、真の「社会企業家」のあり方を問う。
(「週刊ダイヤモンド」副編集長 藤井一)
ジョン・ウッドには二つの顔がある。一つは世界中の子どもに教育の機会を与える志を持った「社会起業家」の顔であり、もう一つはマイクロソフト仕込みの経営手法を操る「企業家」の顔である。
ジョン・ウッド(John Wood) ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。銀行勤務を経て1991年にマイクロソフト入社。30代前半で国際部門の要職に就くも、1999年にNPO「ルーム・トゥ・リード」設立。途上国の教育支援に力を注ぐ45歳。 (以下、NPO「ルーム・トゥ・リード)の活動紹介より) ●教育は、子どもたちにとって生涯の贈り物になります。 ●教育は、子どもたちだけでなく、家族や家族を取り巻く町、村、国、そして次世代の社会や経済を変える力を持っています。 ●教育は、未来への希望を生み出します。 ●子どもたちに未来を。子どもたちに希望を。 |
設立10周年を迎えるNPO「ルーム・トゥ・リード」は、ネパール、ベトナム、インドなど9ヵ国で教育支援活動に取り組んでおり、すでに832の学校を建て、7526の図書館を開設し、600万冊の現地語児童書を発行している。
この大規模な社会貢献は、創業者ジョン・ウッドの一通のメールから始まった。
「ネパールに本を──協力してください」
1998年、マイクロソフトにおける秒速のビジネスマン稼業に浸かり切ったウッドは、9年ぶりの長期休暇を取ってネパールを訪れた。
そこで、彼が偶然知り合った教師の手引きによって目にしたものは、本のない学校、本のない子どもたちだった。子どもたちに本を読む習慣を与えたい。心からそう思ったウッドは3週間のトレッキングを終えてカトマンズに帰り着くと、すぐさま近くのネットカフェから100人以上の知り合いにメールを送る。
そのメールは知り合いの知り合いに転送されたりして、ウッドの実家には瞬く間に3000冊の本が集まった。インターネットの威力である。
99年、ウッドは父親とともにネパールに飛び、8頭のロバに3000冊の本を載せ、現地の学校を訪れた。はちきれんばかりの子どもたちの笑顔を見て、ウッドは「僕は世界を変えた。少なくとも世界のほんの一部を変えることができた」と実感する。
この実感が、ウッドの人生を変えた。 マイクロソフトでは国際関係の要職にあり、手厚い待遇を受けていたが、「何百万人という子どもが本を読めずにいるというのに、台湾でウィンドウズが何本売れるかということが本当に大切なのか」と思えてきたのだ。