【第19回】 2009年07月09日
“何もしない時間”は無駄なのか?――「ウツ」を引き起こす「有意義」という言葉
――「うつ」にまつわる誤解 その(19)
現在の社会では、何につけても効率が優先され、通勤時間などでも寸暇を惜しんで知識を身につけることが奨励されるような風潮があります。
経済効果や経済効率が最優先される価値観は、いつの間にか「時は金なり」という考えと結びついて、私たちの生きる時間についても、常に「有意義」に過ごすべきであるという強迫観念を生みだしてしまいました。
何かを「する」ことにばかり価値が置かれ、何も「しない」時間は無為に浪費された時間と見なしてしまう現代人の意識は、「うつ」をひき起こすオーバーワークの精神的土壌になっていますし、「うつ」の治療に欠かせない「何もせずに」療養するという際にも、罪悪感や焦燥感を抱かせる原因になっています。
今回は、この「有意義」という病に取りつかれてしまった私たち現代人と「うつ」の関係について考えてみたいと思います。
幼少期から始まっている強迫的な時間管理
相談にいらっしゃるクライアント(患者さん)の幼少期からの歴史をうかがってみると、常にすき間なく習い事や塾、友だちとの遊びの予定等でスケジュールがびっしり埋められていたということが珍しくありません。
幼少期においては、親の影響下で毎日が「有意義」にしつらえられ、何をするわけでもなくダラダラと過ごす時間が奪われてしまうことが多いようですが、後にそれが習慣化して、本人自身もスケジュール帳に空白ができることに不安を覚えるようになったりします。
学校では、長期休みにすら「日課表」「予定表」の作成が義務づけられ、それをきちんとこなせることが良い過ごし方であるとすり込まれます。
社会人になってからも、余った時間はスキルアップを目指して「有意義」に使うべきだという考えがあちらこちらから聞こえてきます。また、仕事場においては、近年徐々に時間効率が厳しく管理されるようになってきている流れも見られます。
このような時代ですから、何も「しない」でダラダラと過ごすことが問題視されることはあっても、何かを「する」ことで埋め尽くされた状態について問題視されることは滅多にありません。しかも、目に見える「有意義」なことをしていることは周囲からプラスの評価を受けやすいため、「有意義」に傾く傾向は、疑いを抱くこともなくどんどん強化されていくことになります。
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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