【第23回】 2009年09月03日
なぜ自分を傷つけてしまうのか?――新しい「ウツ」に見られる自傷や過食の病理
――「うつ」にまつわる誤解 その(23)
近年新しく「うつ」と呼ばれるようになった病態(第5回参照)の中には、リストカッティング(手首自傷)などの自傷行為や、過食・嘔吐などの摂食障害を伴うタイプも存在します。
そのような病態では、パーソナリティの基盤となる「自己愛」の部分に問題を抱えていることが多く、通常行われているような休養や薬物療法中心のアプローチでは解決が困難で、適切な治療に出会えずに経過が長引いてしまっているケースも珍しくありません。
今回は、こういった自傷行為や過食といった現象がなぜ起こるのか、また、そこから読み取るべきメッセージは何かといったことについて、考えてみたいと思います。
自己破壊ではなくリセットが目的だった
自傷行為や過食は、その行為自体が奇異で自己破壊的に見えるために、周囲からはネガティブなものと捉えられ、専門家による治療の場面でさえも「今後は決してしないと約束して下さい」と言われてしまうことがあるようです。
確かに、このような症状を消失させることは治療の重要な目的の1つではありますが、それを急ぐ前に、なぜこのような症状が起こっているかを理解しておく必要があります。つまり、症状の意味を汲み取っておくということです。
このような症状を抱えている人たちは、根本のところに「自分自身のことを認められない」「自分を愛せない」といった「自己愛」の問題を抱えており、それゆえ、生きること自体が苦痛に満ちた状態になってしまっています。
自傷や過食にいたる心境を詳細に聴いてみると、「もうやらないようにしよう」といくら意識で止めても、それをしのぐ強い衝動が突き上げてきて、自分が別モードに入ったような解離状態の中で行為に及んでいることがわかります。そしてそれは、自分の中に溜まった歪みをリセットするかのような、一種の自己治療の意味合いを持っているのだということもわかってきます。
「頭」の圧政から解放されたい衝動
「自分自身のことを認められない」状態とは、「頭(理性)」が「あるべき自分」を勝手に設定し、その基準や条件を満たしていない「実際の自分」を嫌悪してしまっていることです。
そのために、普段は「あるべき自分」に近づけるべく「頭」が自分自身を強力にコントロールしていることが多く、コントロールされる側の「心」(=「身体」)はかなりの無理を強いられています。そして、その無理がある程度以上に蓄積されてくると、自傷や過食の衝動が突き上げてくるようになるのです。
Special Topics
バックナンバー
- 最終回
- 「ウツ」が治るとは、元に戻ることではない――新しく生まれ直す“第2の誕生” (2009年09月17日)
- 第23回
- なぜ自分を傷つけてしまうのか?――新しい「ウツ」に見られる自傷や過食の病理 (2009年09月03日)
- 第22回
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- 「自信が持てない」―現代の「ウツ」に潜む悩み (2009年07月23日)
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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