【最終回】 2009年09月17日
「ウツ」が治るとは、元に戻ることではない――新しく生まれ直す“第2の誕生”
――「うつ」にまつわる誤解 その(24)
「うつは本当には治らない」「うつは再発しやすいものだ」といった認識が、依然として、あちらこちらでささやかれ、信じられているように見受けられます。これらは、「治る」ということを「元の状態に戻ること」と捉えて行なわれている治療のはらむ現実的な限界を多くの人が見て、流布されるに至った残念な風評です。
第4回でも触れましたが、repair(修理)ではなくreborn(生まれ直し)あるいはnewborn(新生)といった深い次元での変化こそが、真の「治癒」には欠かせません。この変化を「第2の誕生」と呼ぶことにしましょう。
最終回の今回は、その「第2の誕生」とはどのようにして可能なのか、そこからどんな生き方が始まっていくのかということについて、触れておきたいと思います。
「自力」と「他力」
仏教では、よく「自力」と「他力」ということが言われます。「自力」は自分の力を頼みにしている在り方を指し、「他力」は仏の力によって導かれることに開かれた状態を指しています。
何度も用いてきた「頭」「心」「身体」の図で考えてみると、「自力」とは「頭」の知力や意志力を頼みにしている状態であり、一方の「他力」は、大自然由来の「心」(=「身体」)にゆだねた状態と見ることができます。そう考えてみると、さしずめ「うつ」とは、「自力」が尽きた状態に相当すると言えるでしょう。
ある日突然に朝起きられなくなる、会社に行こうとして自分に号令をかけても身体が動いてくれない。「うつ」の始まりによく見られるこのような状態は、「頭」が命令しても、もはや「心」(=「身体」)がストライキを起こし従ってくれなくなった状態と理解できます。
第12回でも触れましたが、「うつ」に陥りやすい人は、この「自力」を頼みにして自らに努力や忍耐を強いてきた場合が多く、それがある時点で破綻してしまったのが「うつ」状態なのです。
仏教学者の鈴木大拙氏は、「自力」と「他力」について、こんなことを述べています。
自力というのは、自分が意識して、自分が努力する。他力は、この自分がする努力は、もうこれ以上にできぬというところに働いてくる。他力は自力を尽くしたところに出てくる。窮すれば通ずるというのもこれである。〈―中略―〉底の底まで進んで破れないというところまで進んで、やがて自力を捨ててしまう、そして捨ててしまったところに、自然に展開してきたところの天地、その天地というものは、やがてまたわれわれの客観界ではないのか知らんと思う。あるいは絶対客観とでもいうべきであろうか。(『禅とは何か』春秋社より)
さて、ここで述べられている「自力を尽くしたところに他力が働いてくる」ということを、「うつ」について当てはめてみると、どんなことが見えてくるでしょうか。
Special Topics
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- 最終回
- 「ウツ」が治るとは、元に戻ることではない――新しく生まれ直す“第2の誕生” (2009年09月17日)
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著者プロフィール
- 泉谷閑示
(精神科医)
1962年秋田県生まれ。東北大学医学部卒。東京医科歯科大学医学部付属病院医員、(財)神経研究所付属晴和病院医員、新宿サザンスクエアクリニック院長等を経て、現在、精神療法を専門とする泉谷クリニック院長。著書に『「普通がいい」という病』(講談社現代新書)と最新刊の『「私」を生きるための言葉』(研究社)がある。
「泉谷クリニック」ホームページ
この連載について
いまや8人に1人がかかっているといわれる現代病「うつ」。これだけ蔓延しているにもかかわらず、この病気に対する誤解はまだまだ多い。多数の患者と向き合ってきた精神科医が、その誤解を1つずつひも解いていく。
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