【第24回】 2009年10月14日
人の命より資本主義を優先するのか?
米国健康保険改革の座礁
私がシリコンバレーに渡ったのは13年前である。当時の健康保険料は月額2万円(1ドル=100円)程度であった。それが10年ほど前から徐々に上がりだし、この5年間の上げ足は驚くほど早い。2年前に月額23万円と通告された。年額に直すと276万円にもなる。もはや筆者の支払い能力を超えてしまった。
筆者は個人で加入しているので、企業の従業員として加入するのに比べて3倍ぐらい高めになる。それに60歳を超えると上昇カーブは急にきつくなった。65歳になると公的保険であるメディケア(高齢者用公的健康保険)が適用になるので、負担はぐんと軽くなるが、それまでは民間保険しか選択肢はない。保険会社を変えても似たり寄ったりの保険料である。周りの日本人の中には保険料の高さに耐えかねて帰国する人が増えてきた。
そこで、筆者はアメリカの健康保険を諦めて、日本の健康保険に加入することにした。筆者は元勤務していた銀行の健康保険組合に相談に行った。70歳まで加入できる退職者用の健康保険があるという。入行以来28年間に渡って、これといった病気にも罹らずに保険料をせっせと納めてきたから、こうした便宜を図ってくれるのだろう。
保険料を尋ねた。20数万円だという。それは月額かと尋ねたら、年額だという。何という差だ。迷わず住民票を日本に移して加入することにした。アメリカに年間の半分以上住んでいる筆者としては不安が残った。もし事故にあったらどうなる、もし救急患者で入院したらどうなる。考えればきりがない。不安がいっぱいである。でも健康保険に276万円は払えない。腹をくくるしかなかった。
低所得者向け公的保険にすら
加入できない貧困層が4600万人
アメリカでは保険に加入していない人が4600万人もいる。6人に1人が保険に加入していない。企業に就職している間は、企業の健康保険に加入できる。個人で加入するより料率は低いし会社補助もある。だが、企業からレイオフされると状況は一変する。1年半はやや高い料率で元勤務先企業の健康保険を続けられるが、それ以降は個人で保険に加入しなければならなくなる。給料もない中で健康であることを神に祈りながら無保険者になる。
誰もが保険に加入できる訳ではない。病歴のある人は断られるし、病気療養中の人も加入できない。保険会社は民間企業であるから、保険の支払いが起きそうにない健康な人を選んで加入させる。いちばん保険を必要とする人が加入できない。保険の精神から見ればまさに本末転倒である。
すでに民間保険に加入している人でも実際に病気になると、保険会社が負担してくれないケースも数多くあると言う。いろいろな難癖をつけて支払いを渋るからだ。日本のように治療と保険会社負担額に関する統一ルールが一部しかないので、大きな支出を伴う医療行為を行う場合に、医師は事前に保険会社の承認を得る必要がある。医師の毎日は保険会社との交渉に費やされている。
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著者プロフィール
- 安藤茂彌
(トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学客員教授)
1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。 VentureAccessホームページ
この連載について
シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。
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