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シリコンバレーで考える 安藤茂彌

クリステンセン教授が指南する人間の幸せ

安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]
【第74回】 2014年1月17日
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 クレイトン・クリステンセンが書いた「イノベーション・オブ・ライフ」という本を手にした。原題は「How will you measure your life?」で、日本語版の表題とは似ても似つかない。何が書いてあるのか興味が湧き、読み始めてみた。この本は、ハーバード大学経営学大学院(以下“HBS”と略)を卒業して社会に巣立つ学生に送る最終講義として、2010年の春に講演した内容をまとめたものであった。

 著者は「イノベーションのジレンマ」という新しい学説を発表して一躍有名になったHBSの教授である。「イノベーションのジレンマ」は、画期的なイノベーションは既存の事業を破壊することが多いために、大企業から出てくることは少なく、小企業から出てくることが多いと指摘し、多くの賛同者を得てきた。

 ただし、この本は経営学を解説した本ではなく、HBSを卒業した学生が“幸せな”人生を送るための「指南書」ともいうべき内容である。教授はなぜ「幸福の指南書」を書く気になったのか?本書は、ハーバード大学と留学先のオックスフォード大学で一緒に学位をとったクラスメートを観察していると、卒業時までは立派な人生を歩んでいたのに、社会に出てから人生を踏み外す人があまりにも多いという観察から出発している。

 その中には有罪判決を受けて、刑務所に入った友人が3人いるという。エンロンの元社長で14年間の監獄生活を送り、最近出所したジェフリー・スキリングはHBSの同級生だった。頭脳明晰で、努力を惜しまず、家族思いの立派な人間だった。卒業後はコンサルタント会社マッキンゼーに入社、史上最年少でパートナーに昇格し、一億ドルを超える年収でエンロンのCEOとしてスカウトされた。だが輝かしい経歴とは裏腹に私生活は破綻し、最初の結婚に失敗し、孤独な人生を送っていた。

 なぜそうなってしまったのか?教授は経営理論と同じように人間観察をベースに、原因を推測している。難関のHBSに合格し、そこを優秀な成績で卒業して自分の望む職を手に入れた人々は、概して強い「達成動機」を持っている。彼らに共通しているのは、昇進、昇給、ボーナスなど見返りが今すぐ得られるものには時間と労力を優先的に配分するが、すぐに見返りが得られないものには労力を惜しむ傾向があることだ。家族への投資は見返りの少ない投資と考えられ、時間、カネ、努力をかけずに済まそうとする傾向がある。これが積もり積もって私生活の破綻を呼び起こしているのではないか。

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安藤茂彌 [トランス・パシフィック・ベンチャーズ社CEO、鹿児島大学特任教授]

1945年東京生まれ。東京大学法学部卒業後、三菱銀行入行。マサチューセッツ工科大学経営学大学院修士号取得。96年、横浜支店長を最後に同行を退職し渡米。シリコンバレーにてトランス・パシフィック・ベンチャーズ社を設立。米国ベンチャービジネスの最新情報を日本企業に提供するサービス「VentureAccess」を行っている。VentureAccessホームページ


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シリコンバレーで日本企業向けに米国ハイテクベンチャー情報を提供するビジネスを行なう日々の中で、「日本の変革」「アメリカ文化」など幅広いテーマについて考察する。

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