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秋葉原事件で動く「労働者派遣法改正」に欠落する論点

 秋葉原通り魔殺人事件の加藤智大容疑者は、人材派遣会社・日研総業株式会社の社員として、関東自動車東富士工場の塗装ラインに派遣されていた。

 5月21日に突然、関東自動車は日研総業に文書で150人の解約を通知、来年3月まで働けるはずが、この6月末にクビになることになってしまった。加藤容疑者は契約解約の対象ではなかったとも言われるが、“つなぎ事件”での彼の激しい反応は、派遣労働者の解約への異様な恐怖、怯えを感じさせる。

 派遣先を転々とする間に、肉親や友人だけでなく社会とのさまざまな関係性が断ち切られ、孤立内向していく――。とりわけメーカーの住み込み派遣が、詐欺同然といえるほど募集条件とは大きく異なる低賃金、重労働が横行している――。取り扱われ方は、正社員と比べ差別的、侮蔑的である――。それでも、その最低の生活を維持するために、派遣労働者は忍従する以外にない――。だから、派遣契約の唐突な解約は、残酷極まりない絶望感を派遣社員に与える――。

 こうした違法と悲惨の実態は、今やさまざまな報道によって知られている。だからこそ、加藤容疑者の犯行に対して、派遣という労働形態が何らかの要因として働いたのではないか、と即座にメデイアは反応した。貧困問題が社会を不安定化させるという指摘は、こういう事態のことだったのかと多くの人が感じた。

 政府の反応も速かった。町村官房長官は雇用問題との関係に触れ、舛添厚労相は、「日雇い派遣の原則禁止を派遣労働法改正に盛り込む。対象は、通訳などの職種に限定したい」と断言した。野党4党の改正案も、そでに出揃った。

 では、何が変わるのだろうか。ここでは、それぞれの改正案を論評しないかわりに、論点となるポイントを二つ挙げたい。

 「反貧困」(岩波新書)の著者である湯浅誠氏は、「派遣労働においてもっとも問題なのは、低賃金でも雇用が不安定であることでもなく、労働者が何の発言も抵抗もできずに、ひたすら隷属してしまうことにある。派遣労働者は、工場の前で労働者としての権利、生存権を置き去りにしてから、入る」と言う。

 派遣労働者が、日々の労働のなかで圧倒的弱者の立場に甘んじているのはなぜか。昨年来問題になったグッドウィルの「データ費徴収」のように、派遣会社の違法な搾取に抵抗できないのはどうしてか。それは、単純労働従事者だからである。いくらでも労働者の代替が効く職種だから、仕事を失う恐怖に縛られてしまうのである。

 とすれば、派遣労働の職種が拡大緩和された1999年以前に戻って、通訳などの専門のスキルを持った、雇用主に対して対等な立場に立てる職種に限定する、という規制が必要になる。その点では、舛添厚労相の判断は正しい。

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著者プロフィール

辻広雅文
(ダイヤモンド社論説委員)

1981年ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部に配属後、エレクトロニクス、流通などの業界を担当。91年副編集長となり金融分野を担当。01年から04年5月末まで編集長を務める。主な著書に「ドキュメント住専崩壊」(共著)ほか。

この連載について

政治・経済だけではなく、社会問題にいたるまで、辻広雅文が独自の視点で鋭く斬る。旬のテーマを徹底解説、注目の連載です。

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