ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第34回は、アンドリュー・S・ウィンストンによる『ビッグ・ピボット』を紹介する。

環境問題に無関係な企業は無い

 本書の著者であり、ハーバード・ビジネス・レビューオンラインへの寄稿もあるアンドリュー・S・ウィンストンは、ユニリーバやHPなどのサステイナビリティ・アドバイサリー・ボードのメンバーも務めるほか、PwCのサステイナビリティ・アドバイザーとしても活躍している、環境戦略のコンサルタントである。

 「気候変動や資源の逼迫が深刻な問題である」――そう聞いても、どこか遠い問題のように感じてはいないだろうか。果たしてどれほど深刻か、影響はどの程度なのかという点に関しては、さまざまな意見があるだろう。しかし、ビジネスにこのような問題がコストとしてのしかかってきていることは間違いない。安定した気候、きれいな空気や水、資源といったさまざまなインフラが脆弱になっているのだ。

 本書に登場するユニリーバやネスレ、ウォルマート、P&G、トヨタなどは、異常気象、逼迫する資源、否応なく求められる透明性といった課題を乗り越えるために、戦略を大転換(ビッグ・ピボット)している企業だ。これらの企業に共通するのは、受け身で戦略を変えていったのではない。また、社会貢献か利益かというトレードオフで戦略を考えてもいない。社会貢献も利益も得ているという点が、過去の戦略とは大きく異なる点であろう。

 たとえば、トヨタは先行してハイブリッド車のプリウスを開発したことで、対抗馬がほとんどない状態をつくることができ、人気を博した。また、アディダスが試験している乾式色染というプロセスは、繊維の染色で必要な膨大な量の水を必要としない。今後ますます暑くなり、水が不足する状況が予想されるなか、先行して代替手段を開発することは、環境問題を解決することはもちろん、アディダスの事業を持続させるためにも必要なことであろう。こういった事例に触れると、「環境に配慮することでビジネスに何のメリットがあるのか?」という問いかけそのものが、時代遅れになっていることを感じずにはいられない。