『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 2018年11月号の特集タイトルは「AIアシスタントが変える顧客戦略」である。アマゾンのアレクサ、アップルのSiri、マイクロソフトのコルタナといった音声AIが家庭に入り込むことで、顧客接点が大きく変化している。日常生活に溶け込んだAIアシスタントは、今後もさらなる進化が見込まれており、企業と顧客の関係性を大きく変えていくだろう。本特集では、競争ルールも一変する、新たな時代の顧客戦略を考える。

 アイビー・ビジネススクールのニラジ・ダワル教授による「『アレクサ』時代のマーケティング」では、AIアシスタントを基軸とするプラットフォームが誕生することで、マーケティングにいかなる変化が生じるのか、その近未来の姿を論じる。世界を代表するプラットフォーム企業はAI(人工知能)アシスタントの実用化を進めており、スマートスピーカーという形で私たちの日常生活に溶け込み始めている。こうして新たなAIプラットフォームが構築されることで、既存のビジネスのルールは大きく変わり、特に「顧客獲得」「顧客満足」「顧客維持」という3つの領域で変革が起きる。そして、特定の商品をいかに大量に売り込むかが問われる「規模の経済」の時代から、多様な商品を基盤に消費者との関係性を深める「範囲の経済」の時代が訪れると筆者らは言う。

 パロアルトインサイトCTOの長谷川貴久による「音声AIがパートナーになる時」では、アップルが目指すビジョンを引き合いに、音声AIの持つ技術的可能性と、それがビジネスに与えるインパクトについて説く。発売当初は「何のために使うのかわからない」や「家にあるとプライバシーが心配」と、批判的に見られていたアマゾン・ドットコムのアレクサ。それが世界に広がったのには理由がある。米アップルでAIアシスタントのSiri開発に関わった筆者は、アレクサの主要な成功要因を3つ掲げて、本稿をスタートする。ただし、筆者は「音声AIの進化はまだ5%程度にも達していない」と喝破する。

 日本マイクロソフトの平野拓也社長へのインタビュー「マイクロソフト:変容し続けるプラットフォーム企業」では、マイクロソフトがAI/クラウド時代のプラットフォーマーとして何をすべきなのかが語られる。ビル・ゲイツが創業し、WindowsやOfficeなど現代のビジネスに必要不可欠な製品を世に送り出してきたマイクロソフト。だが、その成功モデルがあまりに完成されていたがゆえに、時代の急速な変化に対応し切れず、2000年代後半には新しいテクノロジー分野で他社に先行を許すケースもあった。そうした中、サティア・ナデラ新CEOの圧倒的リーダーシップの下、ソフトフェアのライセンス販売モデルを変革し、クラウドビジネスへの大転換を図ったことで、同社は生まれ変わった。

 一橋大学大学院の藤川佳則准教授による「顧客が顧客戦略を動かす時代」では、顧客戦略が企業主導型から顧客主導型へと変貌を遂げつつある現状が示される。アレクサの登場により、マーケティングが大きく変わりつつある。AIスピーカーが家庭に入り込むことで、顧客の無意識の言動や「暗黙知」がとらえられ、新たな顧客価値の発見につながる。一方、デジタル化の進展によって、コンテンツ・メディア・デバイスの関係性が複雑化し、従来のマーケティングが十分に機能しなくなっている。そこで筆者は、新たな統合マーケティングアプローチ「アーチモデル」を提唱する。