職場の人間関係は重要である。悪化すれば仕事に影響を及ぼしかねない。同僚との関係性は決定的な出来事で築かれると思うかもしれないが、実際には、メールの返信が遅れたり、ランチに誘わなかったりという些細な行為、すなわち「マイクロムーブ」に左右されると筆者はいう。同僚と良好な関係を構築するマイクロムーブを実践するための5つの指針が示される。


 ある日の午後、マネジャー(「キャシー」と呼ぼう)が、チームメイトのハリソンにメールを送り、その日の早い時間帯に会社の幹部陣と行ったミーティングに、彼を呼ばなかった理由を説明した。キャシーとハリソンの関係は良好で、彼女はハリソンが気分を害していないことを確かめたかったのだ。

 2日経っても、彼からの返信はない。この小さな出来事で、キャシーの心の中に疑問がわき上がった。ハリソンはなぜ、突然こんな失礼なことをするのだろう?本当は、気分を害しているのだろうか。私たちは本当に「良好な」関係なのだろうか。次に顔を会わせたとき、どのように振る舞えばいいのだろう?

 一方、ハリソンは、やることリストに「キャシーに返信する」と記していたものの、忙しさに紛れ、そこまで手が回らずにいた。返信が遅れているせいでキャシーが気をもんでいるとは、想像もしていなかった。

 同僚との付き合いは時に複雑で、しばしばストレスの元になる。筆者らがそれぞれ職場の人間関係について研究を始めてからほぼ9年、幾度となく冒頭のエピソードと同様の現象を目の当たりにしてきた。結局のところ、同僚との関係は仕事観にまで影響を及ぼしうる。たとえば、同僚と一体感を持っている場合は、所属組織に満足している傾向が非常に強い

 ただし一般的に、職場での人間関係は誤ってとらえられやすい。進化の過程で、人の脳には、状況を「良い」か「悪い」かのどちらかで評価する機能が組み込まれた 。脅威とチャンスに対応できるようにするためだ。現代人も本能的に、同様の二者択一で同僚との関係を評価する。

 問題は、職場の人間関係には多くのタイプがあることだ。良い関係もあれば悪い関係もあり、その間の関係もある。大規模な研究で、この点が確認されているばかりでなく、1つひとつの関係には、往々にしてポジティブとネガティブの両側面が混在していることも明らかになっている。

 また大半の人は、同僚との関係を固定したものとみなす。つまり、良い関係はいつもハッピーな関係で、悪い関係はけっして良くならないと想定している。そのため、健全な関係を当然のものと思い込み、必要な気遣いと投資をしようとしない。また、気まずくなった関係は切り捨て、改善策を講じようとしない

 これも見当違いだ。なぜなら実際には、同僚との関係は流動的だからである。ストレスばかりがたまる関係だとしても修復は可能だし、きわめてポジティブな関係でも急速に悪化しうる

 よく観察すれば、同僚との関係は実のところ、一連の「マイクロムーブ」で構成されていることがわかる。マイクロムーブとは、その瞬間には取るに足りないように思えるが、互いの関係に影響を及ぼす、些細な行動や態度である。

 それは、ダンスを特徴づけるステップに似ている。あなたがステップを踏み、それに応じて同僚がステップを踏む。各ステップ、つまり各マイクロムーブによって、関係の方向性が変わりうる。

 感謝や思いやりを表す小さな言動(たとえば、誰かがあなたのためにドアを開けてくれたときに「ありがとう」と言うことや、誰かがミーティングに遅れたときに理解を示すこと)が、人を結びつけ、長く続く信頼を築く助けになりうる、と研究者たちは示唆している。その一方で、前述のハリソンの対応の遅れのように、一見ごくありふれたことが緊張やネガティブな感情を生み、そのしこりが長い間消えないおそれもある。