仕事に情熱を注げている人は幸せであり、彼らに休息など必要ない。これは素晴らしい考え方のようにも聞こえるが、そこには根拠がないどころか真逆である。目的意識を高く持って仕事に取り組んでいる人のほうが、ほんの些細なきっかけで燃え尽きるリスクがある。その理由はなぜか、それを未然に防ぐためにリーダーは何をすべきなのか。


「自分の愛することを仕事にすれば、生涯で1日たりとも働かなくて済む」(訳注:孔子)。これは言い古された言葉であり、素晴らしい考え方だが、根拠はまったくない。

 自分が好きな仕事は「仕事ではないも同然」という図式は、心から好きな仕事ならもっと懸命に、ほぼ休みなく働き続けられるはずだという考え方に通じる。仕事ではないも同然なら、休日など必要ない──その信念を世の中に浸透させるための産業があるかのように、書籍や講演で繰り返され、雑貨店に「仕事は無上の喜び」というコピーをつけた商品が山積みされている。

 ただし、この手の精神論は燃え尽き症候群(バーンアウト)につながりやすい。その影響は悲惨なものになりうるうえ、気づきにくいのだ。

 職場の幸福に関する専門家であり、国内外で講演をしている私は、このテーマに対する自分の情熱に圧倒されそうだ。私は自分の仕事が大好きだ。つまり、私も簡単に燃え尽きかねない。これは、私の仕事につきまとう皮肉でもある。

 もっとも、私は仕事だと思ったことはない、と主張するつもりはない。むしろ、複雑な恋愛に絡め取られているかのようだ。興奮して、情熱を燃やし、夢中になったかと思えば、次の瞬間には疲れ果て、圧倒されて、休息が必要だと感じている。

 この数十年間、「燃え尽き症候群」という言葉の優先順位は低かった。先進国のつくられた危機であり、ミレニアル世代やZ世代がワーク・ライフ・バランスの充実を求めて危機を煽っていると、不当に批判されてきた。

 しかし現実には、彼ら若い世代の言う通りだ。より意味のある仕事を求める思いが高まるにつれて(若い世代は、意味のある仕事なら給料が32%下がってもいいと考えている)、燃え尽き症候群、特に目的意識が高くて燃え尽きることに対する懸念は、今後も高まり続けるだろう。フルタイムの被雇用者7500人を対象にしたギャラップの調査では、仕事で「かなり頻繁に」あるいは「常に」燃え尽きたと感じる人は23%、「ときどき」感じる人は63%だった。

 WHO(世界保健機関)は、今年6月に発表した国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)に、燃え尽き症候群の項目を追加した。「職業上の環境における現象に限定され……職場での慢性的なストレスにうまく対処できない結果として解釈される症候群」と定義している。その主な特徴は、(1)意欲が枯渇または消耗している感覚、(2)自分の仕事に対する心理的な隔絶感、否定的な感情や不信感の増加、(3)仕事の効率の低下、である。

 世界の健康保険の専門家の助言を受けて起草されたICD-11は、燃え尽き症候群の定義と、医学的な疾患と考えるべきかどうかをめぐる議論に一定の答えを出した。疾病ではなく症候群として認定されたが、WHOが明確に定義したことを受けて、燃え尽き症候群を理解して対処する医療サービス提供者や保険会社が増えるに違いない。