『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2020年3月号の特集タイトルは「戦略を実行につなげる組織」である。

 多くの企業がこれまで、戦略を業績指標と関連付けることにより、その達成を目指してきた。しかし、いつしか本来の目的を忘れて、指標化された数字の達成そのものが目標になってしまい、イノベーションを創出する風土を犠牲にしたり、組織のパーパスにそぐわない指標を立てたりするケースが見られる。本特集では、そうしたギャップを埋める方法を考える。

 ノースカロライナ大学のケナン・フラグラー氏らによる「目先の数字にとらわれて目標を見失っていないか」では、大手金融機関ウェルズ・ファーゴの失敗に着目して、業績指標ばかりを重視することを防ぐ3つの方法を示す。戦略は一般に抽象的なものだが、業績指標で表すとつかみやすくなる。そのため多くの企業で、戦略を指標に関連付けて、目標を達成しようとしてきた。しかし、そこには罠が潜んでいる。

 早稲田大学ビジネススクール准教授の牧兼充氏による「『失敗のマネジメント』がイノベーションを生む」では、イノベーション創出のプロフェッショナルであるサイエンティストの研究を通じて、彼らの思考法を解き明かし、失敗のマネジメントとインセンティブのあり方から、企業経営において欠かせない点を明らかにする。

 時代の変化が激しくなり、企業のトップマネジメントはこれまで以上に、中長期の戦略を立てることが難しくなった。イノベーションを起こそうと中長期目標を立てたとしても、現場でそれをどのように短期目標に落とし込んでいけばよいのか、混乱が生じることが少なくない。この問題は、イノベーションの本質を理解していないことにある。

 世界的ベストセラー『キャズム』で著名なジェフリー・ムーア氏へのインタビュー「戦略の中心は製品でなく顧客に据えよ」で同氏は、工業製品を中心とした時代が終わり、デジタルサービス全盛の時代を迎えて、必要なのは顧客中心に考えることであると言う。古くからあるこの考え方を、とりわけ伝統産業はいまの時代にどう適用すればよいのか。氏が掲げるのは「カスタマーサクセス」と「ゾーンマネジメント」である。

 IMD教授のトーマス W. マルナイト氏らによる「パーパスを戦略に実装する方法」では、パーパスは戦略においてどのような役割を担うのか、設定の際のアプローチ、実行方法、ソフト面への影響まで、具体的なアドバイスを提示する。

 過去5年間にわたり年30%以上の成長を続ける、米国、欧州、インドの28社を調査したところ、市場創造やニーズ対応、競争ルールの変更といった3つの主要な戦略のほかに、思いもよらない第4のドライバーがあった。それが「パーパス」である。パーパスを事業活動に組み込むことは長らく奨励されてきたが、高成長企業はそれをお題目ではなく戦略の中心に据え、確実に実行に移していた。

 資生堂代表取締役CEOの魚谷雅彦氏へのインタビュー「100年先を見据えて挑戦し続ける会社をつくる」では、短期的に見かけの数字を整えることはせず、次の100年を見据えた変革に取り組む、魚谷氏の経営哲学が語られる。

 魚谷雅彦氏は2014年、役員を経ない外部出身者としては史上初、資生堂のCEOに就任した。以来、長期の成長戦略を打ち出し、縦割りの組織文化にメスを入れ、ブランド構築やイノベーション、サプライチェーン等に積極的な投資を行うなど、正面からの改革を実行することで、売上高1兆円超をはじめとする大きな成果を上げてきた。