『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2020年5月号の特集タイトルは「顧客の持つ価値を問い直す」である。

 企業と顧客が直接、かつ多様な接点でつながるいま、顧客との関係性が大きく変わり始めている。顧客ロイヤルティをいかに高められるかが、これまで以上に競争優位の源泉となった。投資家の中には顧客情報の開示を求める動きもある。企業は、顧客という存在が自社にもたらす価値をどう測り、顧客本位の組織づくりにどうつなげていけばよいのか。

 ベイン・アンド・カンパニーパートナーのロブ・マーキー氏による「顧客こそ企業価値の源泉である」では、企業が好業績を上げるために取るべき4つの戦略を提示する。それは、顧客価値を測定する仕組みをつくり、その運用に必要なテクノロジーに投資し、デザイン思考を活かして顧客ロイヤルティを培い、顧客ニーズを柱にして事業を組み立て、組織とステークホルダーをこうした変革に巻き込むことである。

 ベイン・アンド・カンパニーパートナーの大越一樹氏による「顧客ロイヤルティを起点に組織を変える」では、顧客ロイヤルティを測定する指標「ネット・プロモーター・スコア」(NPS)を通じた経営革新を促す筆者が、その活用法を含めてポイントを明らかにする。重要なのは、顧客ロイヤルティの単なる測定に留まってはならないことにある。先端テクノロジーや新たなマネジメント手法を活かして、組織変革につながるように、指標測定のその先に進むのだ。

 エモリー大学ゴイズエタ・ビジネススクール助教授のダニエル・マッカーシー氏らは、企業の内在価値を評価するのに顧客の指標を用いる方法として、「顧客ベース企業価値評価」(CBCV)を提唱する。これは、成長優先主義という一般的で危険な考え方から、収益持続性と顧客重視の経営への移行を促すものである。「CBCV:企業の内在価値を測定する方法」では、その詳細が示される。

 ミューチュアルファンドのバンガードは、最もロイヤルティの高い顧客を持つ企業としてしばしば名前が挙がるが、それは偶然ではない。「市場はますます顧客情報を求めるようになる」では、1996〜2008年という長い任期中、自社に愛着を持ってくれるロイヤルティあふれる顧客を引き付け、そうした熱心な顧客のクチコミで新たな顧客を呼び込むという好循環を実現してきた、同社の元CEOであるジャック・ブレナンに聞いた。

 ソーゾー・ベンチャーズでベンチャーパートナーを務める鳩山玲人氏による「顧客とのダイレクトなつながりが利益を生み出す」では、サンリオのマーケターとして同社の再建と急成長を牽引し、現在は国内外で最先端のコンテンツビジネスに携わる鳩山玲人氏が、コンテンツ業界を中心に、顧客本位の意味合いがどのように変化し、企業にいま何が求められているかを論じる。

 顧客本位の経営を実践する重要性は何十年も前から叫ばれているが、かつては企業の意志を表明するスローガンに近いものであった。しかし、企業と顧客とが無数の接点で直接つながり、かつ顧客の特性を詳細に把握できるようになったいま、顧客一人ひとりに最適化したサービスを提供しなければビジネスそのものが成立しない、厳しい時代を迎えている。

 キリンビール常務執行役員・マーケティング部長の山形光晴氏による「キリンは選ばれ続けるブランドをつくる」では、顧客を第一に考え、顧客に選ばれ続けるブランドづくりを掲げて、チームで成果を上げ続けている筆者が、顧客本位のマーケティングの要諦を明かす。

 キリンビールが顧客価値を重視した組織として大きく変貌しつつある。主力ブランド「一番搾り」の缶ビール販売はリニューアル後、3年連続で成長を果たし、第三のビールとして発売した「本麒麟」も大ヒットを続けている。長年2位だったシェアはトップの背中が見えてきた。この背景には、競合他社をベンチマークして新商品開発を繰り返すというメーカー体質から脱却しつつあることが大きい。