「例えば、GPSなどの衛星測位システムでは、平面上の位置は測定できても、『建物の何階に人がいるのか?』という立体的な位置を測定することはできません。屋内位置情報サービスなら、各階にビーコン(電波発信装置)やセンサーを取り付け、サーバー(クラウド)プラットフォームと連携することで、『何階のどの場所にいる』というところまで特定できます」と説明するのは、位置情報サービスの業界団体、一般社団法人LBMA(Location Business&Marketing Association) Japanの川島邦之代表理事である。
川島邦之代表理事
東京都出身。米ニューヨーク州立大学Plattsburgh校卒。米ヒューストン・シリコンバレーでのモバイル関連の営業・インキュベーション事業を経て、日本にてモバイル・インターネット関連のベンチャー領域において事業開発・経営を歴任。2020年2月、一般社団法人LBMA Japanを設立、代表理事に就任し、現在に至る(2023年4月現在:事業者会員63社)。リバーアイル代表取締役社長。
この特性を応用すれば、「ショッピングセンターの5階の南側にある店舗を訪れた客だけに、その場で使えるデジタルクーポンを配信する」といったデジタルマーケティング施策が可能になる。平面上の位置しか特定できないGPSの位置情報サービスでは、提供できない付加価値だ。
さらに、来訪者が何階から何階へと移動し、各フロア内をどのように回遊しているのかという“人流”も立体的に可視化できる。フロアレイアウトやテナントの見直し、人の流れに沿ったマーケティングの仕掛けなどを考えるのに役立つデータが入手できるのである。
「デジタル田園都市国家構想」が普及に拍車を掛ける
屋内位置情報サービスの用途の幅は、デジタルマーケティング以外の領域にもどんどん広がっている。代表的な例がスマートファクトリーだろう。
「工場のどこに人が集まり、どのように動いているのかという動線を可視化することで、効率的な生産ラインや作業工程の設計が可能になります。一つの工場で確立された生産ラインや作業工程のベストモデルケースを、他の工場に横展開する動きも広がっています」(川島代表理事)
長く続いたコロナ禍の中で、「海外の工場に出張できずに困った」という製造業も多いと思うが、屋内位置情報サービスを使えば、離れている工場の人の集まりや動きもリアルタイムで捕捉できる。リモートで生産管理を行うためのツールとしても活用できるのだ。
この他にも、「オフィスで働く社員が、どのワーキングスペースを利用しているのかといった動きを把握し、入室・退室のデータを出退勤システムにひも付けて活用している会社もあります。働き方改革にも役立てることができるのです」と川島代表理事は事例を紹介する。
これほど屋内位置情報サービスの活用が広がっている理由の一つは、テクノロジーの急速な進歩である。
例えば、代表的な屋内位置情報サービスの一つであるBLE(Bluetooth Low Energy)は、スマートフォンとワイヤレスヘッドホンなどをつなぐ近距離無線通信技術のBluetooth(ブルートゥース)を応用したものだが、その測位精度は数年前の誤差1メートル前後から、同50センチメートル前後まで上がっている。
昨今導入が進んできたUWB(Ultra Wide Band、超広帯域無線通信規格)を使った屋内位置情報サービスは、誤差わずか30センチメートルと非常に高精度だ。