活用が広がっているもう一つの理由は、サービス事業者とユーザー数の増加である。かつて、屋内位置情報サービスを提供するのは一部のテック企業だけだったが、最近では大手を含む一般企業がサービスに参入するケースが増えている。

「業界団体であるLBMA Japanへの加盟企業も、団体が発足した2019年10月の15社から、23年4月には63社まで増えています。位置情報データ活用の用途が広がってきたことに加え、国が推進している『デジタル田園都市国家構想』が普及に拍車を掛けている側面もありそうです」と川島代表理事は見る。

デジタルの力で地方の人口減少や少子高齢化、産業空洞化などの社会課題を解決する「デジタル田園都市国家構想」では、現状のデータを可視化する技術が非常に重要であり、中でも人の集まりや移動状況を知るための位置データは欠かせない。

高齢者ケアや子どもの見守り、工場のオートメーション化といった課題を解決するために、屋内位置情報サービスの活用はますます広がっていくはずだ。

課題はあるが、普及の動きは後戻りしない

このように、さまざまな可能性を秘めた屋内位置情報サービスだが、さらなる普及を図るためには、乗り越えなければならない壁が幾つかある。

その一つが、インフラ整備である。衛星の電波が届かない屋内で位置を計測するためには、建物の壁面や天井などに幾つものビーコンやセンサーを設置しなければならない。つまり、初期投資がかかるのだ。しかも、ここ数年の半導体不足によって、ビーコンなど様々な計測機器そのものが大幅な供給不足に陥っている。

仮に供給が元通りになっても、日本中の主要な建物に数千万個単位のビーコンやセンサーなどを設置しなければならないとなると、社会インフラとして整備するのはかなりの難題である。

さらに川島代表理事は、「天井など、通電していない場所に取り付けるビーコンは電池で動かすしかありませんが、3~5年置きに大量のビーコンの電池交換が必要となり、管理面でも難しくなります」と指摘する。この課題を解決するため、最近では常時通電している自動ドアのセンサーや、店舗のキャッシュレス決済端末にビーコンを取り付ける技術も開発されているが、こうしたアイデアをもっと広げていく必要があるだろう。

川島代表理事が屋内位置情報サービスの一般的な普及に向けた課題として挙げるのが、専用アプリのダウンロードである。屋内にビーコンを設置しても、その電波を受信できるアプリがスマートフォンにダウンロードされていなければ、位置を測定できない。アプリが無ければ、専用のセンサーを保有することが必要になるが、小売店などの一般客を対象とした施策を行うには適していない。

「小売事業者の皆さんが、お客さんにアプリをダウンロードしていただくのはとても大変なことで、ダウンロードを促すために電子クーポンを発行するなど、さまざまな取り組みが行われていますが、簡単ではありません。特定の事業者のアプリだけではなく、企業や業界の垣根を越えて、一般ユーザーの方々が利用できる環境を提供する仕組み作りを行っていく必要があります。」と川島代表理事は提言する。

時間はかかるかもしれないが、重要な社会インフラの一つとして今後、屋内位置情報サービスの整備が進むことは間違いない。LBMA Japanの加盟企業の間でも、サービス普及に向けた協業や共創の取り組みが進んでいるようだ。

川島代表理事は、「業界の裏方として、加盟企業にコラボレーションの場を提供しながら普及をサポートしていきたい」と語った。