幾つかの企業が始めている、具体的に女性の「荷物を分け合う」試みもあります。

育児休業に入る女性社員とその配偶者が、女性の会社で一緒に研修を受ける取り組みです。この研修の目的は、ざっくり言えば「うちの女性社員が活躍するために、パートナーの君も頑張ってくれ」と伝えることです。女性一人で育児を背負うことがないように、「育児は2人で」という話を子どもが生まれる前にしておくのですね。これは男性にとっては、出産、育児を主体的に捉えるきっかけにもなります。「女性活躍」というと、女性側にばかり目が向いてしまいますが、このような男性側へのアプローチも重要です。

もちろん、女性が活躍するための条件整備は必須です。

まず取り組みたいのが、評価基準の変更です。例えば従来の管理職への登用基準が「男働き」基準になっていないか、という点は重要です。これが古いままでは、女性が該当することが少なくなります。また、女性のための管理職研修や、女性にメンターを付けるなどの積極的な方法も必要です。これらはポジティブアクションと呼ばれます。女性がなかなか管理職になれないのは、これまでの経緯からそのための機会や経験が不足していることがあるからです。

具体的には、男性中心のこれまでの雇用システムの下で仕事経験への不安があったり、男性社員が経験を積む30代には育児などで仕事だけに集中できない期間も続くなど、女性の置かれた状況を踏まえたアクションが必要になるのです。

表層のダイバーシティと深層のダイバーシティ

企業がDE&Iに取り組むに当たり、見落としてはならないことがあります。ダイバーシティには、「表層のダイバーシティ」と「深層のダイバーシティ」があるということです。外見から分かる違いが「表層」、外からわかりにくい違いが「深層」です。

ダイバーシティ経営というと、女性活躍と同義にとらえる方もいるのですが、それは多様性の一部です。現在では、深層的なもの、海外では特にスキルや経験にフォーカスするようになっています。日本でも、これまで新卒一括採用しかしてこなかった大手の金融業が、採用の3分の1は中途採用にするなどの変化が出始めました。

ダイバーシティ経営の考え方の基本は、「多様な人材が活躍する組織がいい」というものです。「マイノリティを支援する」というのは、そのための環境整備と位置付けるべきです。

表層と深層を掛け合わせてみれば、私たち一人一人、全然違うものを持っています。そんな私たちの良い部分を、企業はどうしたら生かすことができるか。マイナスを無理に埋めながら同じ形に成形しようとするのではなく、様々な形を組み合わせて強い組織を作る「石垣」のようなイメージで人材活用策を考える必要があります。それを経営課題と結び付けて進める人材戦略がダイバーシティ経営なのです。

そもそもマジョリティーとされる男性も、実は多様性に富んでいるはずです。誰もがいつかは、「シニア」というカテゴリーに入ります。ダイバーシティ経営は、実は誰にとっても関わりのあるもの。多様な人材が働きやすい環境は、今の自分や将来の自分にとっても、働きやすい場所のはずです。