どうすれば、可視化できる車両の比率を上げられるのか?
サントリーは、物流パートナー企業のトラックの位置情報をIoT活用により把握するとの構想を17年ごろに打ち立てた。
具体的には、サントリーが選定したIoT機器を物流パートナー企業のトラックに搭載して位置情報を集め、それを配送計画と突き合わせることで、物流拠点や得意先へのトラック到着見込時刻を算出の上、倉庫管理システム・入場予約システムへ連動するという内容であった。
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だが、この仕組みの展開は難航する。最大のネックは、物流パートナー企業からの協力が思うように得られなかったことだ。
「その当時、荷主であるサントリーが用意したIoT機器は、物流パートナー企業にとってよくわからないものだったのかもしれません。加えて、先方での機器の管理が難しいこともあり、展開が進みませんでした。また、物流パートナー企業のシステムからつなぐとの発想もありましたが、実行するためのハードルが高く、実現を見送りました。その結果、カバー率(位置や動態が可視化できる車両の比率)が上がらなかったのです」と語るのは、当該システムの企画と開発を指揮したサントリーシステムテクノロジービジネスプロセス改革部SCMグループの小島隆課長である。
ビジネスプロセス改革部 SCMグループ
小島 隆課長
そこでサントリーは20年、別の方法で配送状況を把握する仕組みを導入した。トラックドライバーが携帯するスマートフォンからサントリーの専用サイトにアクセスしてもらい、物流拠点や配送先への到着・出発などのタイミングで納品伝票のバーコードをスキャンし、必要事項を入力してもらうという仕組みである。
しかし、「ただでさえ忙しいドライバーに入力をお願いする仕組みなので、協力してもらえる人の数は少なく、カバー率はわずか6%にとどまりました。9割以上のトラックの位置情報や配送状況が把握できず、ほとんど目的を果たせませんでした」と小島課長は振り返る。
そうした試行錯誤を重ねる中で、サントリーは、ある画期的なソリューションの存在を知る。運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)のワーキンググループの一つが開発した車両動態管理プラットフォームである。
このプラットフォームの最大の特徴は、トラックに搭載されているネットワーク接続機能の付いたデジタコ(デジタルタコグラフ、デジタル式運行記録計のこと)や、各物流パートナー企業が運用するシステムなどと自動連携して、トラックの位置情報やドライバーの作業情報を一元的に収集し、可視化できる点だ。
「物流会社によって、採用しているデジタコやシステムの種類は異なりますが、この車両動態管理プラットフォームは、国内ほとんどのメーカーが提供するデジタコやさまざまなシステムとAPI連携し、荷主や元請のシステムで自社はもちろん、物流パートナー企業の車両の位置や動態を確認できるようになっています。既存のデジタコやシステムから情報を収集するので、物流会社は追加の投資や開発を行わなくても、車両のデータを荷主に提供できます」と説明するのは、TDBCが開発したプラットフォームを運営・提供するtraevoの鈴木久夫代表取締役社長である。
この車両動態管理プラットフォームは23年、「traevo」(トラエボ)のブランド名で正式にリリースされた。鈴木社長は、TDBCの前事務局長であり、理事も務めている。
鈴木久夫代表取締役社長
サントリーが「traevo」の存在を知ったのは、正式にリリースされる前の22年のこと。小島課長は「当社で課題となっていたカバー率を格段に上げられるのではないか」と期待を抱いたという。
「従来の仕組みは、物流パートナー企業やドライバーの手を煩わせなければデータが取れないことが大きなネックでした。その点『traevo』は、物流パートナー企業の承諾さえ得れば、相手方にほぼ負担をかけることなく、デジタコやシステムに接続してデータを取得できます。これなら受け入れてくれるパートナー企業も多いはずだと考えたのです」(小島課長)