坂口氏によると、サプライチェーンに関わるリスクは大きく七つに分類できる(図1参照)。種類が多いだけでなく、生産ストップの原因となり得る「供給リスク」や「品質リスク」、コストアップをもたらす「価格リスク」、不備がないかどうか市場や消費者から厳しい目が注がれる「法的リスク」「情報漏えいリスク」「内部統制リスク」「風評リスク」など、もたらされる悪影響の性質やインパクトは、それぞれに異なる。
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また、「供給リスク」だけを見ても、これまで一般的だった倒産や設備トラブルなどのサプライヤーに起因するものだけでなく、地球温暖化の影響による自然災害の頻度の高まりによって、近年では自然災害によって生産がストップするリスクが顕在化している。東日本大震災によって、地震によるリスクも改めて思い知らされることになった。
坂口氏は「今多くの企業の調達・購買者が神経をとがらせているのが、国家間の輸出入停止措置によるサプライチェーンの寸断です。米中対立の熾烈化によって、必要な部品や資材の調達がますます困難になることも予想されています。国際情勢や時代のニーズはどんどん変化しているので、サプライチェーンに関わるリスクも今後ますます増え続けるはずです」と語る。
「頻度」と「強度」で、対応すべきリスクを優先順位付けする
では、増加の一途をたどるサプライチェーン関連のリスクを、企業はどのように管理すればいいのだろうか。坂口氏が提言するのは、「一つ一つのリスクの測定・評価を行い、その上で対策を講じること」だ。
まずは、自社のサプライチェーンがどのようなリスクを抱えているのか、全体的な洗い出しを行う。図1に示した七つのリスクの分類などを参考に、あらゆる角度から想定し得るリスクを可能な限りピックアップする。
その上で、各リスクに対し、起こり得る「頻度」と、起こった場合の悪影響の「強度」を測定する。そして「頻度」と「強度」の掛け算を行い、数値が高い順に対策の優先順位付けを行うのである。
「企業経営者は、全てのリスクをつぶすことを現場に求めがちですが、マンパワーや予算にはおのずと限度があります。マネジメントの優先順位付けをして、より影響力の大きなリスクへの対策に資源を集中投下する方が、現実的で効果も高いといえます」と坂口氏は説明する。
「頻度」と「強度」のどちらも高ければ、当然ながらマネジメントの優先順位は上がる。 一方、自然災害などは、近年「頻度」が高まっているので、仮に1回当たりのダメージ(強度)はさほど大きくないとしても、優先順位は相応に高くなりそうである。
問題は、起こる可能性は極めて低いが、一度でも起こってしまったら致命的なダメージとなり得るリスクへの対処だ。
「例えば、戦争や内乱などが起こる頻度はそれほど高くないと思いますが、その国にあるサプライヤーが製品に欠かせない重要な部品を供給している場合、いったん起こると生産がストップして業績に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、『頻度』が低いので、リスクマネジメントの優先順位はそれほど高くなりません。そのような場合は、万が一リスクが顕在化しても、何らかの善後策が打てるように“選択の自由度”を高めておくのが有効です」と坂口氏はアドバイスする。