「0→1」ではなく、「1→10」「10→100」を狙う
一言で言えば「0→1」ではなく、「1→10」(マネタイズ)、「10→100」(社会実装・スケール化)が勝負だということです。「0→1」とは、先ほど話した発明やアイデアなどです。これは原点としては大事なのですが、お金になる事業にマネタイズ(「1→10」)できなければ自己満足にしかすぎません。さらに、多くのお客さまに価値を認められて使い倒してもらえるような、いわばプラットフォームになるほどの社会実装(「10→100」)を最初から目指すべきです。
といっても100になるものはなかなか見つかるものではありません。そこで、私がキーワードとして挙げているのが「ゆらぎ」「つなぎ」「ずらし」です。
一橋ビジネススクール 客員教授
名和 高司氏
東京大学法学部卒業、三菱商事勤務の後、米ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)修士。マッキンゼー・アンド・カンパニーで約20年間コンサルティングに従事。デンソー、ファーストリテイリング、味の素などの社外取締役を歴任。『パーパス経営』『学習優位の経営』『桁違いの成長と深化をもたらす10X思考』など著書多数。
米シリコンバレーでは「Innovation @edge」という言葉があります。これは、イノベーションはエッジ、すなわち周辺からしか起こらないという意味です。周辺とは、いわゆる「現場」です。顧客との接点であるオペレーションの現場に今までと違う欲求が生まれています。
それで現場が、今までと異なる行動を取るのがイノベーションの種となる「ゆらぎ」です。いわば現場が変化をかぎ取るセンサーの役目を果たすのです。そしてそれらを社内に横展開して「つなぎ」、経営がそこに投資をすることで10倍、100倍に成長させるのが「ずらし」です。
その点では、本社主導のイノベーションというのはあまりなく、やはり最初のところは顧客が本当に困っているという現場から生まれるのです。そこにしか答えはありません。ただし、それが「ゆらぎ」だけで終わってしまうとスケールアップしません。いかに筋のいいものを目利きし、「つなぎ」「ずらし」て大きくしていくかが問われます。
言い換えれば、自社の静的DNA(企業らしさ、アイデンティティーを再現する力)と動的DNA(変化を取り込んでいく力)を読み解き、その上で、単なる「変身」ではなく、自社の中にある本来の強みから、そこに織り込まれている未来の自社を新しく紡ぎ出すような「変態」といえるほどの変化を起こすことが大切です。
さらにここでの成功方程式は、稲盛和夫翁の言葉を借りれば、「大志(Purpose)」×「情熱(Passion)」×「未来進行形の能力(Potential)」という三つの積です。この三つがそろうことでイノベーションが起きるのです。
ここで注意すべきなのは、日本企業は現場が強い一方で、属人的になりがちなことです。それではなかなかスケール化しません。「たくみ」の技で終わらせるのではなく、それを広く「しくみ」化することが大切です。スケール化のための自社独自のアルゴリズムを構築し、それを社内で回すエンゲージメント(社員の熱意)が必要です。
他力本願ではなく自社の強みを発揮したコラボレーションを
——企業が他社とコラボレーションをするに当たり、陥りがちな懸念点や注意点はありますか。