スケーリングは自社単独ではなかなか難しいでしょう。顧客や他のプレーヤーとの共創が不可欠です。先ほど、スケール化のためには自社独自のアルゴリズムを構築することと社員の熱意が大事だと言いましたが、さらに他社とコラボレーションするためには、その二つが外を向いていなければなりません。そして相手に「この企業と一緒にやりたい」と思わせることが不可欠です。
そのためには「お力をお借りしたい」という他力本願では駄目で、その前提として自社が何を提供できるかをはっきりと示さなければなりません。私は「二流と二流を掛け合わせても四流になるだけ」と言っていますが、自らの一流のスキルを徹底的に磨くことが大切です。
むろん、あらゆるものを持つ必要はなく、これだけは負けないというものを持つことが重要です。その点では、オープンイノベーションというよりも、タイトカップリング(長期的コミットメント)で、相手ととことん一心同体でやる覚悟がなければ本当の意味でのコラボレーションはできないでしょう。
例えば知的財産についても、パートナーには惜しみなく開示できるような信頼関係があることが望ましいところです。一方で、相手の無形資産を自社に内部化(手の内化)するのではなく相手をリスペクトしながら、leverage(てこ)として利用し続ける関係が理想的です。日本企業でも、非常に効果的なコラボレーションが実現している例がないわけではありません。そのような企業は、関係性のマネジメントに非常に気を使っています。ぜひ学びたいところです。
厳しい時代は自社が主役に躍り出る大きなチャンス
——社内にイノベーターがいるのが理想ですが、そういった人財がいない場合はどういう解決策が考えられますか。
そのような企業で、外部から優秀な人財をスカウトして社内の責任者に据えるといった例があるのですが、あまりお勧めしません。単に知恵だけをもらってもイノベーションは起こらないからです。外部の人財に入ってもらうなら、プロジェクトベースで一緒に事業を起こしていくといった関与の仕方がいいでしょう。
本来は、内部から人財を選び育てていくことが望ましいところです。よく「若手社員を中心に」と“出島”のようなものをつくったりしがちですが、私はそうではなく、むしろ社内の3人のエース級の人財を抜てきすることが鍵と考えています。「フロント(営業部門など)」「コア(事業企画部門など)」「バック(オペレーション部門など)」の3人のエース人財を核としたイノベーションプロジェクトを展開することで、社内の資産を最大限に活用し、同時にチームにいる他の人財を育成することができます。
——これからイノベーションを起こそうと考えている企業やビジネスパーソンに、どのような期待をしていますか。
日本の市場を見ると、少子高齢化で市場は飽和し、さらに人手不足などの課題が山積しているとネガティブに捉えがちですが、こういう時代だからこそ知恵を出し、自社の存在感を発揮するチャンスなのです。実際に、過去にもバブル崩壊、リーマンショックなどが起きましたが、そのたびに新たな企業や事業が生まれ、成長してきました。危機は新陳代謝の絶好の機会でもあります。ぜひ自社が主役になるチャンスだと捉えて挑戦してほしいですね。