ベテラン頼みだった現場の安全管理を、誰でもできるように
老朽化するインフラや建物の更新需要が拡大する一方、労働人口の減少とともに、施工現場の監督や作業員の確保も年々困難になっている。
こうした“逆ザヤ”の状況の中、深刻化しているのが労働災害リスクの増大だ。
「施工現場の方々は、少ない人数で多くの作業をしなければならず、目の前の仕事をこなすだけで手いっぱいになっています。そのため、どうしても安全への目配り、気配りが二の次となってしまうのです」
そう語るのは、AI(人工知能)などの最新技術で業務変革を支援する、SOLIZE(ソライズ)でソリューション開発や技術開発を担当する井戸伸彰プロダクトマネージャーである。
施工現場の労働災害リスクを高めている要因は人手不足ばかりではない。
「作業ごとのリスクと対策を熟知したベテランの職長が、高齢化で次々と現場を去っていることも問題です。ベテランの知恵が“暗黙知”のまま、継承されることなく失われてしまっているのです」
こう指摘するのは、SOLIZEの桶田雅威SaaS推進シニアマネージャーだ。
「ベテラン頼みだった現場の安全管理を誰でもできるようにするには、“暗黙知”を“形式知”に変えて蓄積し、必要な時にいつでも取り出せるようにするのが有効です。当社は、それを実現する安全管理AIソリューションを提供しています」と桶田シニアマネージャーは語る。
ソリューションの名称は、「SpectA KY-Tool」。SOLIZEが、建設業や製造業などの業務変革のために開発したAIソリューション「SpectA」(スペクタ)シリーズの一つで、2022年7月にリリースされた。
その最大の特長は、安全管理のために「必要な情報を、必要なタイミングで、必要な人に届けられる」こと。「その日に行う作業で起こり得る災害リスクと、具体的な対策をジャストインタイムで明示し、労働災害を削減する効果が期待できます」と井戸プロダクトマネージャーは説明する。
どの建設会社や製造業者も、労災対策のための情報や各種マニュアルを整備しているが、必ずしも現場で活用されているとは言い難く、類似事故の再発が繰り返されるのが実情だ。「SpectA KY-Tool」は、そんな死蔵されている安全対策情報をタイムリーに呼び出し、生きた予防保全の“知恵”として活用できるAIソリューションなのである。
次ページからは、膨大なデータの中からその日の工事に関連する危険予知(KY)情報をAIが選択して提示する「SpectA KY-Tool」の分かりやすさや“ジャストインタイム”性などを、導入して成果を上げた建設会社などの具体例を交えて詳しく紹介する。