共通するのは、両立支援制度は理解できても、実践的な情報にたどり着けない悩みだという。介護は百人百様で、自治体により受けられるサービスの種類や提供体制も異なるため、適切な支援が行えずに困っている担当者も少なくない。
育児支援を内製化している場合、同様に介護の両立支援もできると考えがちだ。しかし育児支援は育休や産休など同じ制度を適用しやすいが、介護は直面する時期やその内容も多様だ。
「『介護は情報戦』とよくいわれますが、適切な情報をタイミングよく取得して対応をしないと、ミスマッチが起こりやすいのです」(井木部長)
法人事業部 社会福祉士
井木みな恵 部長
また、介護対象は自分なりのライフスタイルを築いてきた大人だ。考え方や価値観を確認しながら進めなくてはならない。親子の場合、元々の関係性も影響する。複雑な課題を抱えた従業員に、画一的な情報を伝えても解決にはつながらない。それどころか経営リスクも発生する。
「介護開始から1年以内に仕事を辞める人は約7割に達しているというデータもあります。適切な情報提供を受けられなかったことで、介護に直面しているのに申告せず働き続け、いきなり退職したり、パフォーマンスが低下したりする可能性は十分にあります」(松井秀夫氏)
法人事業部 介護支援専門員
松井秀夫氏
問題は、“予兆”があっても、ビジネスケアラー自身が気付かないケースが多いことだ。
「当社では、介護の両立支援は『介護のエントリー期』『介護の始まり期』『介護と仕事の両立期』の3段階があると考えています。介護準備として最も大切な時期がエントリー期です。介護というと寝たきりや車いすのイメージが強いですが、通院・買い物の付き添いや送迎を親に求められ、そのために自身の時間を使い始めたらすでにエントリー期に入っています。エントリー期に親の生活や金銭面、自治体の窓口などの情報を収集しておけば、始まり期に突入してもやるべきことや相談すべきことが分かり、落ち着いて対処することも可能です」(山根蓉子氏)
法人事業部 介護支援専門員
山根蓉子氏
逆にいえば、エントリー期に準備ができないと、どこに相談していいかも分からず困ることになる。介護保険証はどこにあるのか、要介護認定の申請方法が分からない、などと対応に追われ、仕事との両立が難しくなってしまう恐れがある。
「親子間、家族間で話をするだけでなく、このエントリー期に職場へ申告しておくことも非常に重要です。企業側も早期に把握しておけば、いざ介護が始まってからの業務調整もスムーズです。もっと言えば、エントリー期に申告しやすい組織風土を醸成することが、業務品質を保ち、介護離職を防ぐリスクマネジメントになります」(金子美帆氏)
法人事業部 社会福祉士
金子美帆氏
介護リテラシーを高め自律をエンパワーメント
ただ、エントリー期かどうかは従業員本人にしか分からず、申告を待つしかない。すなわち従業員一人一人が介護リテラシーを向上させる必要がある。
そこをクリアできたとして、「始まり期」「両立期」の支援も簡単ではない。例えば介護休業や勤務時間短縮といった両立支援制度は、産休・育休と違って活用すべき適切なタイミングが千差万別で分かりにくいからだ。
「休業中に介護の体制を整えることが重要で、休めば解決できるわけではありません。支援制度を適切なタイミングで活用するには、介護の情報を網羅した上で両立の方法を体系的かつ客観的に考える必要があります」(松井氏)