近年、消費者の購入に至るまでの行動パターンを、デジタル広告の各種測定ツールによって把握することが可能になりました。しかし、これらのデータを把握しただけのマーケティングには限界もあります。連載第2回目は、「カスタマー・ジャーニーを把握し、マーケティングに役立てる」と題して、第1回で概観した「データの活用がマーケティングにもたらす変化」の具体例を紹介していただきます。

 

 近年、デジタル領域では、コンバージョンパスデータ(購入に至るまでの経緯をあらわす行動ログデータ)をはじめとする行動データがデジタル広告の各種測定ツールによって捕捉できるようになり、購入に至るまでの行動パターンを把握することが可能となりました。今回は、それらの行動データとその他のマーケティングデータをあわせて活用しながら、心理変容も含めてカスタマー・ジャーニー(ブランドとのコンタクトポイントで生じる、一連の顧客体験)を把握し、さらには、それらのデータを直接的にマーケティングに活用するソリューションを紹介します。それらを通して、ブランド経験の全体を俯瞰する視点から個々の顧客を読み、マーケティングの課題解決に役立てることの重要性について、考えていきたいと思います。

アトリビューション分析の可能性と限界、そして、行動データ×大規模パネル調査データによるオンラインマーケティング投資の再配分

 インターネット広告の領域では、最後にクリックされた広告だけでなくコンバージョンに至るまでの全ての広告接触を網羅したコンバージョンパスデータをもとに、広告の貢献度を分析して全体の出稿最適化を図る「アトリビューション分析」が普及しつつあります。このアトリビューション分析では、ラストクリック以前に接触した広告の効果が適切に評価されるため、オンラインでの売上をゴールとするような企業を中心に、全体の出稿の最適化を図っていく試みが行われています。

 しかし、顧客体験全体に対してオフラインの比重が高いカテゴリーやブランド(オンラインでの比較検討や購入が行われにくい日用品や飲料など)では、全体の購買行動において、インターネット広告以外のマス広告などの様々なオフラインのコンタクトポイントの影響、また、オフラインの購買に至る経路、あるいはブランドの効果が及ぼす影響が大きいといえます。たとえば、あるカテゴリーでは、テレビ広告は、オンライン広告のみを出稿している場合と比較して、ブランド認知率を4倍に、ブランド検索数を3倍に、オンライン広告のCPAを50%改善、さらにはオフラインでの売上も増加させるといった形で、全体の購買行動に対して大きな影響を及ぼしています。そのため、オンライン上のコンバージョンパスのみから得られる知見は、ブランド経験全体に関わるコミュニケーションアイデアに結実させたり、マーケティングの意思決定に生かしたりするには、あまりに表層的であり、リスクが大きいと感じています。

 そのようなオフライン比重が高いカテゴリーやブランドでは、オンライン広告であっても、オンラインコンバージョンあるいは自社サイトへの流入などの行動を目的変数として捉えること自体に無理があるため(図1参照)、テレビなどのマス広告のデータやオフラインの購買データも活用し、オンラインコンバージョンやオフラインの購買、また、ブランディングに対して有効な中間指標を発見し、その指標を向上させる広告メニューや訴求メッセージの露出に投資したほうがよいと考えられます。

 このような中間指標を活用したマーケティング手法を実現するのが、ウェブログが紐付いた大規模なオンライン調査パネルへの、広告配信にあわせたインターネット広告接触調査の実施です。この調査データの分析では、オンラインコンバージョンを指標とした場合の投資対効果が相対的に低い広告メニューであっても、興味関心や利用意向といった指標での評価では数倍近く効果的な場合があることが明らかとなっています。さらに、オンラインコンバージョンに効果的な広告メニューや訴求メッセージは、顧客体験の起点がオフラインの人だけで分析した場合には、効果がみられない場合があることも示されています。これらの結果は、適切な中間指標の設定の重要性を示す一例といえます。