過去と現在を比較する手法には限界がある。経営計画が短期化するなか、思い切って30年先まで目を凝らし、将来の市場環境を考慮し、現在、および自社の強みと照らし合わせる必要がある。「10年以上にわたって使い続けることのできるグローバル長期戦略」を立てるためにどうすればよいのか。ブーズ・アンド・カンパニーが示す2040年までのメガ・トレンド10、連載第2回。

 

新興国市場の機会の取り込みは不可欠

 ほとんどの業界において新興国市場が今後の主戦場になるにもかかわらず、日本企業の多くは「ガラパゴス」と揶揄されながらも、国内市場を中心とした過当競争の中で低利益率に苦しんできた。かといって、猫も杓子も新興国市場に参入すればよいのかというと、そう簡単でもない。欧米企業も新興国企業も参入してくるため、過当競争に陥りやすいからである。成長市場に参入することが成長戦略になるとは限らない。ここでこそ、まさにポジショニングが重要になる。自社が優位性を持つケイパビリティを客観的に理解し、そのケイパビリティが最も有効に訴求する市場セグメントを選択し、他社の参入をどう阻止し、または他社とどう手を組んでそのポジションを長期的に維持するかを考えておかなければならない。

 新興国市場での戦略を考えるうえでは、長期的な視点を持つことを忘れてはならない。短期的に見れば、新興国のなかの富裕層セグメントを狙うことが最も確実な打ち手となる。しかし、新中間層と呼ばれるセグメントの市場が今後急速に拡大することを考慮するならば、このセグメントに長期的にどう取り組むのかを考えておかなければならない。

 さらに、新興国市場で戦ううえでは、何を自前で行い、何を他社に任せるのかを判断しなければならない。ここで1970~80年代の日本市場における外資系企業の取り組みを考えてみると、おもしろい示唆が導き出せる。外資100%で参入し日本人トップを据えて事業拡大してきた例(日本IBMなど)もあれば、日本企業との合弁で参入して事業拡大してきた例(富士ゼロックスなど)もあり、それぞれの長所・短所もわかる。

 ゼロックスの場合、親会社は大型機に強みを持っていたが、日本の競合(キャノン、リコーなど)が小型機に注力してきたため、合弁である富士ゼロックスが対抗上小型機を開発することを、ゼロックスは「黙認」した(本来、製品開発はゼロックスが行う取り決めであった)。日本の競合は米国市場にも小型機で進出してきたが、ゼロックスには対抗できる機種はなかった。しかし、富士ゼロックスの小型機を「逆輸入」することで、どうにか迎撃態勢を作ることができたのである。今の新興国企業も、いずれ先進国市場に進出してくることは間違いない。新興国市場で地元のライバル企業と本気で戦う「味方」(子会社でも合弁会社でも提携先でもよい)を作っておくことで、先進国市場も含めた長期的な勢力図における防衛線となりうるのである。