言語を同じくする国々でも、ビジネス文化は大きく異なる。表面的な文化の類似は、時に本質的な違いを覆い隠すので注意が必要だ。その好例として、英米のコミュニケーションの違いを見てみよう。


「ああ、やっとこの日が来た」――アメリカ企業に勤めるあなたは、イギリス支社との打ち合わせに向かうためにロンドン行きの飛行機に乗り込みながら、胸中でこうつぶやく。「ようやく、異文化に関するガイドブックを持たずに出張できる日が来た。向こうでの振る舞い方を予習しておく必要はないんだ」。昨年中にあなたは中国、韓国、インドを訪れたが、毎回、現地の人々の行動様式やビジネスの進め方の違いを苦労して学んできた。だが、今回はロンドンだから自分のやり方で大丈夫なはずだ。何しろイギリス人とアメリカ人なのだ。仕事のやり方や方向性に違いなどあるはずない。

 ところが、まったく甘かった! 言語が同じだから、あるいは地理的に近い国だからというだけでは、2つの国が共通のビジネス文化を持つとは限らない。当たり前だと思われるだろうが、これは海外でビジネスを行う際にしばしば見落とされがちなことだ――特に、2つの文化が表面的には似ているように見える場合、重要な根本的違いが目立たなくなる。似ているという思い込みは、ちぐはぐでプロらしくないやり取りにつながってしまう。

 アメリカとイギリスの最も大きな違いの1つは、「自己アピール」である。これは昨年、私が両国のマネジャーへのインタビューから明らかにしたものだ。アメリカにおけるビジネス上のコミュニケーションに馴染んでいる人なら誰でも知っているが、アメリカ人は自分の成果を臆せずに語り、自分を売り込むことに積極的だ。就職説明会や面接はもとより、セールスの電話、業績評価、そして重要な任務や地位をめぐり社内で競い合う時もそうだ。もちろんアメリカ人の自己アピールにも限度はある。誰もかれもがためらいもなく自分を売り込むわけではないし、売り込みの名人なわけでもない。自己アピールが許容される度合いは、企業文化や脈絡によって異なる。しかし押しなべて言えば、自己アピールがアメリカで職業人として生き抜くために必要で有益なスキルであるのは明らかだ。

 他方、イギリスではあからさまな自己アピールは一般的でないだけでなく、原則としてタブーである。ほとんどのイギリス人は、人前でほめられると落ち着かず、即座に機転の利いた言葉で称賛をかわす。自分や自分の業績を同僚にアピールするどころか、そんなことをすれば確実に報いを受ける――嘲りや冷笑というかたちで。自分が成し遂げたことを上司に伝えたいのなら、誇張を交えず、事実を淡々と述べるといい。脚色は必要ないし、スタンドプレーは論外だ。実際、イギリス人にとって「自分を低く見せる」ことは、アメリカ人の「自己アピール」に相当する技術なのだ。