好評連載「売れ続ける仕組みづくり講座」も最終回。マーケティング・ストーリーの重要性を超えて、今回は、ブルーオーシャン戦略の観点から消費者の「心理」と「行動」について考える。

 

 本連載「売れ続ける仕組みづくり講座」も最終回です。これまで、マーケティング・ストーリーの重要性について繰り返し述べてきました。

 売れ続ける仕組みをつくるためには、消費者だけでなくビジネスに関わる、社内外全てのステークホルダーがwin-winの関係を構築できるマーケティング・ストーリーを描くことが必要です。時には競合もストーリーの共演者になりうることも指摘しました。

 今回は、「ブルーオーシャン戦略」の観点も踏まえながら、需要創造における消費者の「心理」と「行動」について考えてみます。

有望に見えるブルーオーシャンは、幻の市場だった

 今から6年前の2008年3月からいわゆるメタボ健診がスタートしました。その当時「メタボ市場」は有望市場として注目を集め、異業種からの参入が相次ぎました。

 携帯電話各社が、歩数計や脈拍センサーを内蔵した健康ケータイを発売。食品業界では糖質・糖分ゼロの“ゼロ系市場”への期待が膨らみ、発泡酒や缶コーヒーだけでなくハム・ソーセージやのど飴などの食品でも“ゼロ”を標榜する商品が登場しました。旅行会社もスポーツクラブと共同で健康ツアーを売り出しました。

 ところが、約2000万人のメタボ潜在患者(メタボ予備軍も含む)が存在したにも関わらず、業界が期待する程の新しい需要は生まれませんでした。

 様々な調査データによればそこには間違いなく大きなブルーオーシャンが確実に広がっているはずでした。しかし、その需要を顕在化させることがそう簡単にはできない難しい市場だったのではないかと私は考えています。

 つまり、企業の様々なマーケティングアプローチにより、メタボ対策のために生活習慣を変えようという健康意識の高い人たちは、おそらくメタボ健診が始まる前に、すでに何らかの対処をしていた人が多く、約2000万人と見積もられたメタボ解消ニーズは、あくまでポテンシャルとして想定された規模であり、メタボ潜在患者層は行動が伴わなかったからこそ、対処の必要なメタボ対象者でありえたのです。メタボ解消というニーズはありながらも、その人たちに何らかの対処行動を誘発し実需に転換するのは現実的には非常に難しく、実際に刈り取り可能なリアルな顧客ではなかったという事です。

 一見、「ブルーオーシャン」に見えたメタボ市場は、実は顕在化が困難な幻の市場だったのです。