新規事業の取り組みが遅々として進まないのはなぜか。それはイノベーションが本質的には「新たな成長モデルの探求」であり、既存事業における迅速化の手段を適用できないからだ。探求の旅を加速させるには、市場での学習、独自の資金供給など5つの要件が必須であるという。


 破壊的イノベーションの取り組みにおいて、上級幹部たちが抱える最も一般的な不満は、カタツムリのように遅い進捗だ。世の中では目まぐるしい速さでイノベーションが起きているように見える。それなのに自分たちは、新しい市場の創出につながるアイデアを延々と追求し続けるばかりで、実行に至らない。いったいどうしたものか――。

 このようなフラストレーションに現実が輪をかける。上級幹部が事態の迅速化を図る際の常套手段――厳しい締め切りを設定する、プロジェクトに大量のリソースをつぎ込む、進捗確認の頻度を増やすなど――が、うまく機能していないように見えることだ。むしろ多くの場合、破壊的アイデアに取り組んでいるチームのペースを鈍化させる原因になっている。

 なぜだろう? 厳しい締め切りや頻繁なチェック、リソースの追加は、戦略計画の「実行」を加速させるのには役立つ。だが破壊的イノベーションは、そもそもは実行可能な戦略計画を「立案」する必要がある。イノベーション論の第一人者、スティーブ・ブランクが指摘するように、新興企業とは拡張可能なビジネスモデルを探求している最中の、一時的な組織なのだ。戦略の探求を加速させることは、戦略の実行とはまったく異なる課題である。

 実行可能な新規成長モデルの探求を、より迅速に行うための5つの方法を以下に紹介する。

1.少人数の専任チームを編成する
 小さなチームはほとんど常に、大人数のチームよりも動きが早い。ジェフ・ベゾスがアマゾン社内で用いている経験則の1つに、「チームの人数は2枚のピザで満たされる規模にとどめよ」というのがある。多くの大企業が犯す誤りは、新規事業を中核事業のミニバージョン、つまり法務、品質保証など各職能からの担当者をそろえた組織にすべしと考えることだ。肥大化したチームは有力なモデルを迅速に探求するには不向きだ。対照的に、少人数の機敏なチームは柔軟性と学習の速さを最大限に発揮する。

 理想をいえば、チーム全員を専任にして同じオフィスに配置すればリアルタイムでの意思決定が可能となる。それが無理ならば最低でも、プロジェクトのリーダーは専任とすべきだ。時間を取られる雑事を最小限に抑えなくてはならない。

2.市場で学ぶよう強く促す
 スティーブ・ブランクの近著、『スタートアップ・マニュアル ベンチャー創業から大企業の新事業立ち上げまで』(ボブ・ドーフとの共著。翔泳社)の章題にもなっている次の言葉が、すべてを言い表している――「オフィスから飛び出せ」。大企業は市場の規模を見積もって戦略を練り上げる際、机上の調査やコンサルタントに頼り切っている。だが未来の事業は実際の市場で、あるいはその近くで探求することが必須だ。まだ存在しない市場は測定と分析が非常に難しい。だからこそ担当チームはできるだけ多くの時間を、将来的に顧客やパートナー、サプライヤーになりそうな相手と過ごすべきである。チームが議論を終えて、実際に製造、販売、そして提供品のサポートを試みる段階に入れば、よりいっそう示唆に富んだ教訓が得られる(たとえその提供品に何らかの限界があるとしても)。