物事を個別具体的にとらえる欧米人と、大局的にとらえるアジア人。この思考様式の違いを意識することが、グローバル・チームのマネジメントでは重要になるという。


 ある金曜日、私はパリで講義をしていた。中国人のCEOたちを相手に、午前中はヨーロッパ人とうまく仕事をする方法について教えた。午後になって、私は彼らにこう尋ねた。「このケーススタディでは、チーム内で対立が生じた時の人々の姿勢はさまざまです。ここでチームリーダーが取るべき手段は何でしょうか?」

 笑顔が魅力的で小鳥を思わせる女性、リリー・リーが手を挙げた。彼女はハンガリーで2年間会社を経営してきた。「我々にとって、ヨーロッパで信頼関係を築くのはとても難しいです。ハンガリー人は、人間関係を深めるための時間を中国人ほど多く使わないので」

 私はいささか面食らった。私が尋ねたのは対立についてで、信頼関係についてではなかったからだ。誤解されたのだろうか。通訳の言葉を聞き間違えないように、イヤホンを耳にしっかり付け直した。リリーはその後も数分にわたって、信頼関係やヒエラルキー、自身のハンガリーでの経験について語った。中国人の参加者たちは注意深く耳を傾けていた。

 何分にもわたって興味深いコメントを聞くことができたが、私からすれば、冒頭の質問とは何の関連もなかった。その後ようやく、リリーは本題に入った。「チームリーダーがミーティング以外の場所でもチームの人間関係を深めるために時間を使っていれば、議論や対立が起こってもはるかに対処しやすいと思います」

 午後の間ずっと、参加者たちの答えはこれと似たようなパターンを繰り返した。まず周辺的な内容を何分か語った後で、本題に戻ってくるのである。

 中国人のこの特徴は、東アジアと欧米の最も大きな文化的相違の1例である。もちろん、2つの文化圏の違いはあらゆる側面に見られ、なかには驚くような違いもある。しかし今回示されたのは、最も根本的な違いのように思われる。

 心理学者のリチャード・E・ニスベットと増田貴彦は有名な論文で、この文化の違いについて書いている。ある実験で、水中の様子を描いた20秒ほどのアニメーションを日本とアメリカの被験者に見てもらった。その後、被験者にどんなものを見たかと質問した。

 アメリカ人は、前景にある、大きくて動きが速い、明るい色のもの(大きな魚など)について話した。一方、日本人は背景にあるものについて語る傾向が強かった(左下の小さなカエルなど)。また、日本人は前景のものと背景にあるものとの相互関係について話す割合がアメリカ人の2倍にも及んだ。

 もう1つの実験では、アメリカ人と日本人に対して「人物の写真を撮ってください」と頼んだ。アメリカ人が撮った写真(左)はクローズアップで顔の特徴をとらえる場合が多かったのに対して、日本人が撮ったもの(右)は被写体のまわりの環境も含めており、人物の姿はかなり小さくなっている。

 2つの実験で同じ傾向が現れているのにお気づきだろうか。アメリカ人は環境から切り離して個々の対象に焦点を合わせるのに対して、アジア人は背景や、背景と対象の関係にも注意を向けるのである。