グローバル化や事業の多角化に対応するために、組織の複雑性が増し、生産性が低下している。その一方で、付加価値を生み続けるために、スピード、イノベーション、効率を求めるプレッシャーは日々強くなっている。『組織が動くシンプルな6つの原則』を執筆したボストン コンサルティング グループのイヴ・モリュー氏らに、このジレンマを乗り超えるための「シンプル・ルール」について話を聞く。

いま組織に「シンプルさ」が求められる理由

 編集部(以下色文字):『組織が動くシンプルな6つの原則』にある「6つのシンプル・ルール」を着想された経緯についてお聞かせください。

モリュー:現代の企業には、異なる2つの変化が起こっています。1つは、世界中のあらゆる企業において、従業員のフラストレーションが増大していることです。多くの人がストレスを抱え、仕事に取り組む意欲を失っているのです。仕事への意欲に関するある調査によると、アメリカでは就業者の20%、日本では23%に及ぶ人たちが、「あえて意欲的に仕事に取り組まない」と答えているといいます。仕事をするうえで幸せを感じる人が減り、不満を抱える人が激増しているという事実は、非常に大きな驚きでした。もう1つの変化は、著しい生産性の低下です。これは日本だけでなく世界中の企業に見られる現象です。つまり、世界中の人々が職場でストレスを溜め込み、そのために企業の生産性が低下する事態に陥っているのです。

 これらの原因は、組織の「繁雑性」が高まったことにあります。グローバル化や事業の多角化によって企業にはさまざまな事業部門が増えています。そのため、企業は組織階層、連絡・調整のための仕組みや役職など、込み入ったメカニズムを大幅に増やし、これが繁雑性を招いています。社内手続き、評価、報告、会議など、仕事のための仕事に時間を取られ、自分が進むべき方向や目的意識を見失い、本当にやらなければならない仕事がおろそかになっているのです。

 この大きな要因の一つは、事業環境の複雑性が増しているという問題です。かつては、質の高さと価格の安さはトレードオフの関係にありました。高いクオリティは相応のコスト負担なしに得ることはできず、安さを求めればクオリティを諦めるしかありませんでした。しかし、今やその発想は通用しません。質とコストの両面でニーズを満たさなければ顧客満足を得ることはできず、新たな付加価値を提供するために次から次へと組織の戦略的目標が増えていきます。多くの企業がこうした新しい戦略目標に対して、新しい組織や管理プロセスや新しいKPIで対応しようとしてきました。結果、グローバル化推進や新規事業立ち上げなど、事業の複雑性増大への対応が組織の繁雑性増大につながり、社員の意欲と生産性低下を招いてきたのです。